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第64話 恐ろしい人②

 何も身に纏っていない状態で、まずは頭から洗われる。  願うのは、一刻も早くこの状況から解放されたいということだけ。  見た目の割に洗い方は雑じゃなく丁寧で優しい。  気持ちよくてこんな状況下でもすぐに寝てしまいそうだ。 「ユキの髪は綺麗だな」  反響する浴室内で京極さんが唐突に呟く。  綺麗なんて……そんなこと家族とハル以外に初めて言われた。  大抵の人は僕のこの容姿を見て気持ち悪いと揶揄する人が多いのに。  好奇の目で見られるのはいつものこと。  だけど思ってみれば京極さんも、桐原さんだって世話係となった四人の男性たちも僕の容姿を見て笑ったり、変な目で見たりしなかった。 「……き、気持ち悪くないんですか?」  思いがけずそんなことを聞いてしまったのは、いつもの周りの人の反応と違ったから。 「誰がそんなこと言った?」 「っ……」  ビクリとする程の底冷えする声。 「言え、ユキを傷つけた奴の名前」  鏡に映る京極さんの顔は、今から人を殺すと言わんばかりの恐ろしい顔。 「それとも調べあげるか?」 「だ、だめ……!」 (この人なら本当にやりかねない) 「大丈夫だから! 本当に、……だから、何もしないで……!」  泣いてしまいそうだった。  僕のたった一言で、誰かが標的(ターゲット)になることが……。  僕一人の犠牲ならまだいい。    僕をいじめてきた人は確かに居たけど。  それは過去のことだし、もう僕は乗り越えたことで。    それに京極さんには関係のない話だ。 「どうするか……なぁ、ユキ」  洗った髪を優しくお湯で流される。  愉快そうに鼻歌を歌っている京極さんは楽しそうなのに。  僕はあんなこと聞かなければよかったという後悔だけが募っていた。

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