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第72話 勇気を出して
「お帰りなさいませ。では、私はこれにて失礼致します」
部屋に足を踏み入れた京極さんを見て、リトさんはすぐに一礼して去っていく。
行かないで、と呼び止めたかった。
京極さんと二人きりになんてなりたくない。
「ただいま、ユキ」
「…………」
おかえりなさい、そう言いたくなかった。
ここに僕を監禁した京極さんに「おかえり」なんてそんな言葉かけたくない。
(早く解放してほしい)
自分の膝の上でギュッと握りしめる手は恐怖から震えている。
「飯は食ったか?」
「…………」
話したくない、この人と。
二人きりになるのも息が詰まりそうで苦しいのに。
「い……」
それでも声を発したのは、絶対に家に帰ると決めているから。
「家に、帰して」
そう言い切った自分を褒めてあげたい。
勇気を出して口にした言葉。
「ユキ」
コツ、コツ、と音を立てて京極さんが近付いてくる。
顔なんて恐ろしくて上げられない。
椅子に座ったまま、俯きがちにギュッと目を瞑る。
「そんなに家に帰りたいか」
「ダメだ」と反対される言葉が返ってくると思ったのに、京極さんから発せられたものは違った。
「……ぇ」
驚きに顔をあげて京極さんを見つめてしまう。
「答えろ。帰りたいのか?」
そんなの決まってる。
「か、帰りたい……!」
声を大にして答える。
京極さんは目の前のもう一つある椅子にゆっくりと腰かけた。
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