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第82話 そこに、あったもの

 丁度いい暖かさと車内に流れるラジオが真夜中の子守唄のようで。  起きてなきゃいけないのに……。  いつの間にか眠りに落ちてしまっていた。    *  *  * 「雪兎くん起きて」  気持ちいい眠りから、名前を呼ばれてすぐにハッとする。 「……す、すみません。眠っちゃって……」  覚醒した頭で、自分の今の立場を改めて認識する。  迅先生に運転させておきながら自分は寝てしまうなんて……。 「ずっと気を張っていたのもあるのかもね。大丈夫だよ……それよりも、問題は――」  いつだって優しい迅先生。  だけど、その様子がどこかおかしい。 「……何かあったんですか?」 「確かめたいことがある」そう言い車から降りる迅先生の後を追う。  着ていたダウンジャケットのファスナーを上まで締めて、車から降りる。  冷たい夜風が吹きつけて。  思わず目をギュッと閉じて、再び開く。    辺りは、薄暗いがはっきりとわかる。  生まれてからずっとこの土地で過ごしてきらから。  懐かしい家。  両親が待っているであろう家が、もうすぐ目の前にある。 ――なのに 「…………うそ、」  家に帰れば、両親が心配して待っててくれている。  そう思っていたのに……。  悪い夢ならどうか覚めて欲しい。  心臓がバクバクと煩く脈打つ。  玄関を明るく照らす明かりも。  自分の家だという表札もそこにはなく。 『売物件』  とだけ書かれた張り紙がされていた。

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