86 / 88

第84話 逃げ場所

「行こう、雪兎くん」  その言葉と共に手を差し伸べられる。  服の袖でごしごしと涙を拭って、その手を取る。 「はい」  後ろ髪を引かれつつも、その場を後にする。  車に乗り込んで、シートベルトをつければ、すぐに車は発進した。  *  *  * 「これから、どこに向かうんですか?」  気になった質問を問いかける。   「霙の手の届かない場所……なんて、今の日本にはない」  迅先生の答えに愕然とする。  それは、勝ち目なんてないということ。  一つだけ、手があるとすれば……それは――   「――海外逃亡するとか言いませんよね?」 「それも考えたんだよねー」  笑って答える迅先生。 「でも、雪兎くんパスポート持ってないでしょ」  あ、そっか。  パスポートを持ってないと出国できない。 「じゃあその手は無理ですね」 「うん。それに移動機関を使うのは避けた方がいい……出来るだけね」  何か含みを孕んだかのような返答が気になって迅先生の横顔を見つめる。 「あいつは昔から手段は選ばないからねー」  ごくり、息を呑む。  京極さんが一体どんな手を使うかは分からない。  京極組に僕の存在を知らしめるとも言っていた。  それが一体どんな影響を及ぼすのか、この時の雪兎はまだ知らないでいた。

ともだちにシェアしよう!