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第12話

「こういうのとか、ウルに似合いそう」  腕につける装飾品が並べられている店は繁盛していて、人々の間から顔を覗かせた蓮は視界に飛び込んできたブレスレットが一目で気に入ってしまった。ウルと同じ、深い蒼の石が使われたシンプルな装飾のブレスレットである。マリナが持たせてくれたお小遣いはたっぷり目にあり、自分で稼いだ金ではないのでちょっと心が痛むがお土産だからいいだろうと自分を納得させる。目的のブレスレットを手に取ると、不意に広場側のさざめきが大きくなった。 「神子様の様子がおかしいぞ」  そんな声が聞こえて先ほどの馬車の方を見やると、確かにあの神話のような格好をさせられた中年神子様がよろけながら馬車から降り、こちらへと走ってきているようだ。人々がざわめき、騒ぐのをウルたち騎士団がおさめようとしているが、その間を縫って神子様が駆け抜けていく。 (……意外と、足速いんだ)  顔色が悪いように見えたので運動不足なのかと勝手に想像していたのだが。予想を裏切る足の速さと鬼気迫る様子にちょっと引きながら、蓮は人々の視線が神子様に向いているのをいいことに、今のうちにと手に取ったブレスレットを購入した。 「その色をこの国で買うお客さんはめずらしいんですよ」 「そうなの? 実はね、俺の旦那さんの目が綺麗な蒼で、そっくりだからどうかなって。気に入ってもらえなかったら、俺が自分でつけてもいいなって思うくらい気に入りました!」  旦那さんなんて言ったらどういう反応するのかと思ったが、店主は蓮のことを使用人と思ったのか、「きっとご主人にも気に入っていただけますよ」と笑顔で返してきた。 「あれ、もしかしてお客さん、その首飾り……紋章入りの石なんて滅多にお目にかかれないんだ。ちょっと見せてもらえませんか」 「これ? ちょっとだけね」  店主が蓮の胸元で輝く石に気づいたらしい。石同様にキラキラとした目で見られて、蓮は苦笑交じりに何とか首飾りを外すと店主に見せた。これじゃ誰が蓮の『旦那さん』なのかバレバレでは、と思った瞬間に何故か盛大に蓮の顔が赤くなった。店主は「へー」とか「ほー」とかひたすら感嘆していて、奥から出てきた別な店員もニコニコしたまま頼んでもいないのにブレスレットのラッピングを始めた。  無理やりな感じで関係が始まってしまったが、夢の世界だし蓮には他に行く当てもないし、雰囲気が幼馴染に似ているせいかウルのことを嫌いになれない。ウルにとっても蓮は天災のようなものだっただろうが、取り合えず蓮のことを突き放したり冷遇したりすることもなく傍に置くつもりはあるようで、どちらかというといきなり現れた『奥様』をどう扱えばいいのか分かりかねているという感じだろうか。 「あの超絶無愛想だった陽一とも友達になれたくらいだし、なんとかなるといいなあ」  ほのぼのと考えたところで、人々のわあっという声で鳥たちが悲鳴を上げながら空へと飛び立っていく。 「おい、あんた。……ちょっと付き合ってほしい」  ぐい、と蓮の腕を引いたのは日本人――この国の数百年ぶりに現れた神子様だった。

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