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番外リコス国編:06 *

 王太子宮に戻るよりも神殿の方が近かったのもあり、ウルと蓮が乗った馬車は先ほどまで滞在していた神殿へと戻った。純白の衣装を纏って出かけて行ったはずの神子がすっかり泥まみれで戻って来たので、神殿は一気に大騒ぎとなった。湯殿の用意をしている間に事情説明を行い、話を聞いていくにつれて神官長はホッとした表情になった。 「なるほど、そんなことが……。怪我でもされたのではと心が冷える思いでしたよ。こちらの湯殿は広い造りとなっております。ゆったりと寛いでくださいね。着替えと、休む場所も用意しておきますから」 「ご心配おかけしたのに……色々とすみません」  いえいえ、と神官長が微笑む。ウルを護衛していて、蓮と同じように先ほど泥をかぶった者たちも湯を使えることになり一行には安堵した空気が流れた――が、蓮は彼らとは違うところへと連れていかれてしまう。 「神官長さん、そんな気を遣わなくても……俺もみんなと一緒でいいですよ?」 「神子殿。この度のことはやむを得なかったかもしれませんが、神子殿のお体はリコス神のものであり、リコス神に認められた貴方様の伴侶である王太子殿下だけのものです。我らも人の子である以上、神子殿に劣情を絶対に抱かないと断言はできないのです。ですから、こういった時には神子殿のお気持ちよりも我らの事情を優先させていただくこともございます。申し訳ありませんが……」  訥々と話してきた神官長の声音は、出会ってから一番厳しいものだった。「そもそも男である自分とえっちをしようと考える男がウルの外にいるのか?」という疑問は残るものの、蓮のことをとても考えて言ってくれているのが分かって、蓮は大人しく頷き返した。 「しかし。見返りを求めず、困っている者に手を差し伸べようと行動する――そんな素晴らしい心意気を持った方がリコス神の神子であられることを、誇りに思いますよ」  ふんわりと神官長に笑いかけられ、蓮もほっとして笑ったところで広い湯殿へと着いた。ここは王族たちが禊をする時などにだけ使われるそうだ。神殿の中だけあって質素ではあるが、細かい彫刻があちこちに施されている。入浴用の薄い服を着させられたかと思うと、体を洗うのを手伝うというゴリマッチョ――もとい神官たちが現れた。それをなんとか丁重に断って髪や体を洗い、ようやく湯船に入ったところで入り口から再び誰かが入ってくる音がした。 「あー! あのー!! いますよー、リコスの神子が入浴中ですよー」  自分で自分のことを神子と言うのは気恥ずかしいが、誰かが間違って案内されてきたのなら大変なことではないだろうか。慌てて声を出した蓮の耳には、無情にも扉が開く音が聞こえた。 「……って、ウルじゃん。なーんだ」 「何だとはなんだ。レンが手伝いを断ったというから手伝いに来たのに」  入り口から入ってきたウルに蓮はほっとしたが、苦虫を噛みつぶしたような顔をしているウルは不機嫌そうだ。別に入浴くらい一人でできる、と言い返そうとした蓮だったが、ウルが持ってきた瓶からいい香りがして、思わず鼻をひくつかせてしまった。 「何かの果物みたいな匂いがする……」 「幻の果実とやらから抽出したものらしい。王族にも滅多に提供しないそうだが、レンは神子だからと。私もこれは初めて見た」  アルラ生活が長かったウルも物珍し気に瓶を抱え持って中身のとろりとした薄ピンクの液体を見やった。それにつられるように湯船から上がった蓮はウルにあっけなく掴まってしまう。そのまま湯殿に置かれた、い草のような草で造られた簡易的な長椅子にうつ伏せに寝転がされてしまった。 「あ、あのー……旦那さま?」 「少し黙っていろ。疲れが取れるらしいから」  心なしかウルが楽しんでいる気配がする。とろりと体に垂らされた液体は冷たかったが、それを手で伸ばされて塗り込まれていく過程が思ったよりも気持ち良い。 「……うそ……すごい気持ちいい……ウルってマッサージ上手なんだ……」 「嘘は余計だな」  一瞬不機嫌そうな声がしたかと思うと、腋下のあたりを触れられて「ひゃっ」と間抜けな声を出してしまった。抗議しようと体を起こそうとした蓮だったが、あっさりと仰向けに姿勢を変えられてしまう。 「あれ? なんであおむけ……」 「お前は何かしら話していないと死ぬのか?」  呆れたようにぼやいたウルだったが、しゃべり続ける蓮の口を己の深い口づけで塞いでしまった。突然の展開に驚いた蓮だったが、口づけを繰り返していくうちに快楽にどんどんと流されてしまう。 「あっ、ここって神聖な場所、なんでしょ。こんなことダメなんじゃ……」 「知ったことか」  口づけから解放され、息も絶え絶えといった様子で抗議した蓮だったが、呆気なくウルに鼻で哂われてしまう。ぬめる果実の液体が勃ちあがりかけている蓮の乳首に垂らされ、そのまま円を描いて弄られると堪らずに声をあげてしまう。 「あ、あ……んっ、き、きもち……いっ」  リコス神の徴や、首にかけたままの首飾りに口づけるように触れてから、ウルの形の良い唇が優しくもう片方の乳首を食んでくる。唇に含まれながら舌で弄ばれ、何度かの交わりですっかりと性感帯に変えられてしまったそこを両方愛撫されると一気に理性が消えていく感覚にとらわれる。快楽から無意識に体が逃げを打とうとしたが、呆気なくウルの逞しく整った身体の下に戻されると、もう一度うなじをゆっくりと愛されてからウルの指が蓮の後ろ孔へと伸びた。 「……いつになく甘いな」 「い、いやだ……あぁ……っ」  ぺろりと胸に垂らされたものを舐めとられて蓮が身体を震わせる。口づけによって蕩けているうちに、ぬるぬるとした液体の力を借りて潜り込んできたウルの指が、触れられると泣きそうなくらいに感じてしまう場所を攻めてきた。 「そ、そこ――だめだってば……あ……うあっ」  後孔の浅いところを弄られながら乳首まで同時に愛撫されて、蓮は必死に首を左右に振るがお互いの息が荒くなっていくばかりだ。 「も、いいよ……っ、そこばっかり、い、いやだ」  もうほとんど泣きかけでウルに懇願したところで、ウルの硬く勃ち上がったものが蓮の後孔へと押し当てられた。 「――レン」 「う、ウル……そ、そこ……あぁあああっ」  ぐ、と硬く熱いものが奥まで押し入ってくる感覚に、蓮は我慢できずに掠れた嬌声を上げた。最初はゆっくりとした動作だったが、蓮がねだるように腰を動かしてしまい激しい抽挿へと変わっていく。 「んっ、だ、だめだ……っ、おく……!」  最奥まで入り込んだウルのものが達する気配に蓮も大きく身を震わせた。それは己のもので達する刹那的な快楽よりもずっと深くて、余韻に浸るように蓮はウルの口づけをねだった。 「な、なんかウルがどんどんエロくなっていく気がする」 「そのセリフはそっくりそのまま、レンに返す。随分感じやすくなった」  ウルからの返しに顔を真っ赤にした蓮だったが、ここには顔を隠すものがなにもない。せめてもの抵抗で手のひらで目元を覆ったが、額に口づけられるとくすぐったくて笑ってしまった。

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