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リコス国編(本編続編)~彼が靴を作り始めた理由:06*

「ふ、……あっ!」 「恥ずかしそうにしている割には、はっきりと主張している」  まだ含み笑いをしているウルを、涙がにじんできた琥珀の目で蓮が精一杯睨んだが、眦にも口づけられてしまった。ウルの形の良いくちびるが、大きく開いた襟ぐりへと降りてくる。鎖骨のあたりを強く吸われて、蓮は堪えられず目をとじる。背中で留められていたボタンが一つずつ外されるごとに、蓮の薄い胸元が露わになっていった。 「あ、うっ……あ……ウル、」  ウルの舌で、硬くなり始めていた蓮の乳首が舐られ、ウルの肩を掴んでいた蓮の手に力が入った。まだ、一番気持ちの良いところに触れられていないのに、舌で胸の飾りを転がされているだけで、ビクビクと身体が期待で震えてしまう。指でも責められて、蓮はじわじわと広がっていく快楽に抗えなくなっていった。 「き、きも……ち、い……んっ」  ふわふわとした衣装の長い裾に遮られて、まだ触れてもらえていない下肢に、触れてほしくてつい擦りつけるように腰を動かしてしまう。もじもじとした動きに気づいているはずなのに、ちら、と目を開けて見やると、ウルが視線を向けたのはテーブルの上だった。 「レンの好物があるぞ」  既に余裕がない蓮が、頑張って向いた先に映ったのは、確かに最近蓮が気に入っているお菓子だ。こんがりと焼き目がついたチーズ風の、土台がさくさくとしているタルトに蜂蜜をかけて食べると、思わずうっとりとしてしまう美味しさになる。 「あっ、う……いま? いじわる、だ……」  食べたいけれど、このまま身体を触っていてほしい。二つの欲望の間で蓮が悶えていると、お菓子の傍に用意されていた香油をウルの手が取り上げた。お菓子の匂いと、ウルと繋がるときに用いられる香油の何とも言えない香りで酔いそうだ。 「――レン」 「あ、ああっ」  香油で濡れたウルの手が、ようやく蓮の下肢へと伸びてきたが、期待していた雄芯ではなく後孔へと触れてくる。何度もウルと交わったその場所は、香油の助けを借りたウルの指になぞられるだけで、蓮の身体を跳ねさせた。 「な、なんで今日は……そんな、いじわる、なんだよっ」 「……少しの間、味わえなくなるからな。堪能させてくれ」  ウルの返事の意味を問おうとしたのに、ゆっくりと後孔にウルの指が侵入してきて、蓮は「ひ、……あんっ」と喘いでしまった。 「う、ウル……ゆ、ゆびじゃ……やっ」 「……随分可愛い声を出せるようになった」  楽し気なウルの声は聞こえるものの、我慢ができなくなってきた蓮は首を小さく左右に振ってから、抗議の意味を込めてウルの首筋を甘噛みした。すぐにウルに仕返しとばかりに、乳首の近くをきつく吸われ、そのままウルに背を向けて座るような格好を取らされてしまった。 「――レン、入れるぞ」 「ひ、っ……あ、……う、ん……うん!」  やっと、と言えば良いのか。張り詰めたウルの熱く硬いものが自分の中に穿たれる感触に、蓮は無意識に己の唇を噛み締めていた。しっとりと濡らされた場所を、濡れた音を立てながら――押し開かれていく。 「あ……あ、っ……! だっ、おおき……っ、ひ、ああーーーーっ」 「っ、レン……!」  気持ち良い、と掠れたウルの低い声が耳元で聞こえて、蓮は更に乱れていった。ウルとは身体の相性が良かったのか、最初から痛さもあまりなく気持ち良さがちゃっかりとあったのだが、回数を増すごとに気持ち良さが完全に上回ってしまい、自分が淫乱になってしまった気になる。 「そ、こ……っ! あ、あたって……、ああんっ!」  自分でもあからさまな嬌声を上げているのは分かっても、もはや止めようがない。突き上げる動きと共に、ウルの手のひらに雄芯を包み込まれて、蓮はもはやここが屋外であるという意識も、とうとう吹っ飛んでしまった。 「いいっ、おれ、もっ……きもちいい! あ、ああっ……!!」  とろとろと零れている先走りの液で更に濡れたウルの手に擦られながら、奥を攻められて――蓮は、何とか身体ごと振り返ってウルの唇を求める。 「あーーーっ、あっ―――」 「レン、――」  何かウルが言った気がしたが、蓮はもう快楽を追うことしかできない。ウルのものに強く奥を擦りあげられ、一段と高い嬌声を上げた蓮の最奥に、熱いものが迸るのを感じた。それと時をほとんど同じくして、蓮のものもウルの手の中に白いものを放った。  くたりとした蓮の身体を、ウルが抱えなおしてくる。そのまま長椅子の上で伸びた蓮だったが、身体を添わせてきたウルに口づけられて、ゆっくりと応える。 「ウルの……、きもちいい」  優しく笑んでいるウルに、蓮はうっとりとしながら笑い返す。それから何度か口づけをしているうちに、再び硬くなったウルのものが蓮の中に挿し入ってきて――やがて気づいたら、蓮は寝台の上にいた。 *** 「……エデュカ?」 「ああ、王太子が直接治める、簡単に言えば私の領地だな。リコスは王国だが、土地が広大なのもあって、王都以外は王族や貴族が治める領地の方が多い」  ようやく女装から解放された蓮は、素肌に薄い寝衣だけを纏っている。いつの間にか眠りこけてしまったようで、目が覚めたら身体もさっぱりとしていた。寝衣の心地よさにごろごろとしていると、寝台の縁に腰かけて書類を読んでいたウルが蓮の髪に触れてきた。  そこから、ウルが王都を少しの間離れるという話を聞かされて、今に至る。 「へええ、そんな土地があるんだ」 「私も、本来なら領地のエデュカと王都と、半々くらいの滞在にしなければとは思うが、まだあちらでの体制も整っていない。今回は数日程度、エデュカに滞在する予定だ」  王太子領・エデュカは王都の割合近くで、その時の王太子によっては玉座につくまでエデュカで暮らす者もいたそうだ。農業よりも商工が発達している土地で、リコスでも栄えている都市のひとつでもあるという。そわそわとした蓮に、ウルが気付くと苦笑を浮かべて頭を撫でてきた。 「レンも連れていけたら良いが、レンは神子という立場もある。本来、神子は神殿にいるものだ。王太子宮に住まわせるのが最大の譲歩だと、神官長に常日頃言われているからな。そのうち、エデュカの状況を把握出来たら連れて行くから、今回はおとなしく留守番していてくれ」 「……神子っていうけどさ、偽者の方が本物っぽいんだから意味あるのかなって思うよ、俺は。ウルのおくさまになった方が先なんだから、一緒にいたい……って言ったら、困る?」  最初はぼんやりとした頭で聞いていたが、ウルと長く離れるのは、この世界に来てから初めてのことではないだろうか。言いようもない寂しさで、つい我儘を言いそうになった自分に気づき、蓮は慌てて上体を起こした。ウルは蒼い瞳を丸くして蓮を見ている。 「ごめん、今のはなし! ダイジョーブ、俺、ちゃんと待てるよ。お土産は期待してもいいのかな。名産とか、あるの?」 「……ああ、土産は買ってくるが……レンが、しっかりと気持ちを伝えてくれているのに、応えられないのも結構辛いものだな。なるべく早く帰ってくる」  ダイジョーブダヨー、と蓮は明るく言ったつもりだったが、ウルからは優しい口づけが返ってきた。

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