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第3話
翌朝、目覚まし時計の音と共に瞼を擦って飛び起きた。
朝食時に家族との会話もなく、「いただきます」と「ごちそうさま」
「行ってきます」の挨拶だけで、家を出ていく。
虚しくはない。幼いころから慣れた光景だった。
共働き、一人っ子できょうだいもおらず
一人で夕食をとることも少なくなった。
自由だったけれど寂しかった。
癒えない孤独の中に、現れた光が、本城祐希。
端正な面立ちで背も高く、その性格には誰もが惹かれるのに、
彼もまた孤独を背負っていると感じていた。
推測が当たっていればだけれど、
もっと悲しい人なのかもしれない。
だから、側にいたいと願ってしまうのかも。
学校で自分の席に着く。隣の席のクラスメイトと挨拶を交わす。
いつものようににこにこと笑いかけてくる加納(かのう)に、
嫌に思われない程度にそっけなくする。同じように、
愛想よくして勘違いされたらたまらない。
やたら、休憩時間にも話しかけてくるし、手まで握ろうとするから、
おそらく、間違いなく慕われている。
(……悪いけど、先生だけしか好きじゃない)
邪険にするのもひどいから、適当な愛想で煙に巻く。
クラス替えもない三年間で、馴れ馴れしくなったのは、
三年になってからだ。
よりにもよって祐希が担任になった今年から。
(嫌な奴じゃないんだけど……どうして僕なんだ)
他のクラスメイトに目を向けてもいいのに。
好きな人に思われるのは難しい。
好きじゃないどうでもいいやつからは、好かれるのに。
昼休み、一人きり屋上で学食のパンに
かじりつきながら、ため息を漏らす。
「しょっぱいな……」
大好きな焼きそばパンの塩気が気になって、
二個目のジャムパンに勢いよく食らいついた。
甘さが口内に広がって、少し癒された気がした。
「パンばっかり食ってると栄養偏るぞ」
目の前にかざされた野菜ジュースの紙パックを
受け取ると同時に、現れた顔に驚愕する。
「本間先生……」
「隣いいか?」
こくこく、と頷いた。
祐希の心地よい声が、耳に届く。
「先生、こんなのもらっていいの? 」
「誰にも内緒だぞ」
口元に人差し指を当てる姿に、頬が熱くなる。
誘惑されている気分にさえなるのは、
脳内がお花畑だからだろうか。
「ちょ……何すんの!?」
ぐしゃぐしゃと、頭をかき混ぜられて、睨みつける。
「何か、撫でたくなった」
「子供でも犬でもない!」
「いやあ、いじりたくなるよな、お前って」
むう、と頬をふくらませる。
からかわれても、嫌じゃなかった。
「今の成績なら、十分狙えるから」
ぽん、ぽんと肩を叩かれた。
「絶対、行くから」
それまで、勉強を教えてほしい。
心の中で呟く。
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