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第4話

「頑張ろう……一緒にな」 「先生……」 何でそんな風に言ってくれるの。 どうにもこらえきれなくなって、横からシャツの裾をつかんだ。 これが精いっぱい。 「……甘えてんのか、希望」 それには答えず、ずっと聞きたかったことを口に出した。 「先生は恋人さんいるの? 」 「……いないよ」 少し逡巡して、答えてくれた。 「ほんとうに? 」 「俺は今、生徒を教えることが楽しくて、 プライベートも学校のことばかり考えてる状態でな。 教師になってまだ四年目だけど、目上の先生にも 負けないくらいの情熱で、希望たちを教えているつもりだよ。 みんなが大切でいとおしいんだ。 弟みたいにも思えるし」 こんなに格好良くて、素敵な人なんだから、 意識してしまうのは仕方がないんだ。 「だろうね。先生はみんなに慕われてるもの」 慕うどころか恋心を抱いている。 「そっか。それなら嬉しいんだけど」 ぽつり、低いつぶやきが空に溶ける。 ズボンのほこりを払い立ち上がった祐希は、 太陽の光に照らし出されて、ギリシア神話の神様みたいだった。 アポロンだっけ。 彼がいるところには光が生まれる。 「何、熱い目で見てんだよ。照れるだろ」 「み、見てないから。もう僕も行かなきゃ。休み時間終わっちゃう」 祐希は何も言わない。 背を向けて歩き出す姿に、胸がきゅんとなった。 パンのごみを袋に入れて立ち上がる。 「今日の部活、楽しみだなっ」 妙に声が弾んでしまい、やべと思った。 「お前とは部活動でも会えるんだな」 うっかり顔が熱を持ったけれど、先を歩く祐希には気づかれないだろう。 部活の時間になると体育館に行く。当然ながらライバルもいて、 気が気じゃない。 男子バスケ部は、もちろん俺だけじゃないからだ。 大学受験を控えた三年は夏休み前までしか、部活動には参加しない。 数学の授業のない日と部活もない日は、ホームルームの時間しか会えない。 胸によぎる想いを感じながら、部活に励む。 「……希望はいつもはりきってるな」 休憩タイムに、顔を合わせた時に言われて赤面した。 先生に、頑張ってると言ってほしいからだよ! 言いたくても言えなくて、大きくうなずくにとどめる。 「後輩の面倒見もいいし、お前は本当にすごいよ」 「そんなに褒めないでよっ」 「本当のことを言っているだけだ」 祐希、離れたところから後輩に睨まれてるよ。 自覚がないから困るんだ。 「先生、部活をこんなに楽しいと思えたのも、 先生のおかげだよ。高校になって初めて バスケを始めたのに、上手くなれたのも先生がいたからだ」 一年生と二年生、同じ三年生のメンバーが、ゆっくりと こちらに向かってくる。僕の言葉を聞いていたのかな。

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