6 / 10

第6話

車を運転する祐希は、やはりとてもかっこよかった。 真剣な眼差し、ハンドルを握る仕草に胸の鼓動が鳴りやまない。 赤信号で止まった車の中、祐希は口を開いた。 「腹減ってるか。ファーストフードくらいなら奢れるが」 「まずいんじゃない」 「大丈夫だ。隣街まで行けば誰も知り合いはいない」 ほっ、と胸をなでおろすけど、少し切なかった。 教師と生徒が、その辺で一緒にご飯を食べていたら、 まずいことだと思い知らされた気分だ。 別に、やましいことは何もなくても。 「……そうまでして連れて行ってくれるんだ」 「特別扱いはいけないことだとわかっていても、 何故かお前と過ごしたいと思うこの衝動はなんだろうな」 期待させるようなことをさらっ、と言ってまたハンドルを握りなおす。 甘くてほろ苦い、チョコレートのような人だ。 安全運転で、車に揺られているとうとうとしてしまう。 気がつけば車は隣街にあるファーストフード店の駐車場に、停まっていた。 「希望……着いたぞ」 ふいに、名前を呼ぶなんてずるい! 助手席から降りて、隣に立つ。やっぱり、むかつくくらいの身長差だ。 店内に入ると、動画サイトで有名な曲が流れている。 「あ、これ」 「俺も好きだな……この曲」 歌の好みが同じだけで、嬉しくなる単純さ。 レジカウンターで、トレイに載せられた商品を受け取ると窓際の席へと向かう。 「喫煙席じゃなくてよかった? 」 「俺、煙草は吸わないよ。車の中でも吸ってなかったろ」 「あ、うん」 気を遣って、吸わないわけじゃなかったのか。 校内で喫煙する教師も見かけないし、諸事情で我慢しているのかと思っていた。 向かい合って、食べていると妙な気分になる。 こっちは、コーラなのに祐希は、ホットのコーヒー。 大人だってコーラを飲むだろうけど、自分は子供だと意識してしまった。 「何だ、そんな顔して。未成年はコーヒーは飲まない方がいいんだぞ」 「そうだっけ」 「カフェオレとか、甘いのはともかくブラックはよくないらしい」 もしかして、慰めてくれているのか。 頬を緩めると、祐希も笑ってくれた。 ポテトとハンバーガーを食べ終わったころ、 思いきって口を開いた。 「授業と関係ないのに、職員室でも数学を教えてくれて いつもありがとう。感謝しても足りないよ」 「勉強熱心なのが、教師としてはとても嬉しいよ。 何も気にすることはない」 「でも……先生の時間を」 「慕ってくれて俺なんかを頼ってくれるのは、ありがたい」 真剣なまなざしに戸惑う。 車で、送ってくれた時祐希は、運転手席の窓を開けて告げた。 「出逢えただけでも奇跡だな」 思わせぶりな発言は、夕闇の空気に溶ける。 何も告げられないまま、車は走り去った。

ともだちにシェアしよう!