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第6話
車を運転する祐希は、やはりとてもかっこよかった。
真剣な眼差し、ハンドルを握る仕草に胸の鼓動が鳴りやまない。
赤信号で止まった車の中、祐希は口を開いた。
「腹減ってるか。ファーストフードくらいなら奢れるが」
「まずいんじゃない」
「大丈夫だ。隣街まで行けば誰も知り合いはいない」
ほっ、と胸をなでおろすけど、少し切なかった。
教師と生徒が、その辺で一緒にご飯を食べていたら、
まずいことだと思い知らされた気分だ。
別に、やましいことは何もなくても。
「……そうまでして連れて行ってくれるんだ」
「特別扱いはいけないことだとわかっていても、
何故かお前と過ごしたいと思うこの衝動はなんだろうな」
期待させるようなことをさらっ、と言ってまたハンドルを握りなおす。
甘くてほろ苦い、チョコレートのような人だ。
安全運転で、車に揺られているとうとうとしてしまう。
気がつけば車は隣街にあるファーストフード店の駐車場に、停まっていた。
「希望……着いたぞ」
ふいに、名前を呼ぶなんてずるい!
助手席から降りて、隣に立つ。やっぱり、むかつくくらいの身長差だ。
店内に入ると、動画サイトで有名な曲が流れている。
「あ、これ」
「俺も好きだな……この曲」
歌の好みが同じだけで、嬉しくなる単純さ。
レジカウンターで、トレイに載せられた商品を受け取ると窓際の席へと向かう。
「喫煙席じゃなくてよかった? 」
「俺、煙草は吸わないよ。車の中でも吸ってなかったろ」
「あ、うん」
気を遣って、吸わないわけじゃなかったのか。
校内で喫煙する教師も見かけないし、諸事情で我慢しているのかと思っていた。
向かい合って、食べていると妙な気分になる。
こっちは、コーラなのに祐希は、ホットのコーヒー。
大人だってコーラを飲むだろうけど、自分は子供だと意識してしまった。
「何だ、そんな顔して。未成年はコーヒーは飲まない方がいいんだぞ」
「そうだっけ」
「カフェオレとか、甘いのはともかくブラックはよくないらしい」
もしかして、慰めてくれているのか。
頬を緩めると、祐希も笑ってくれた。
ポテトとハンバーガーを食べ終わったころ、
思いきって口を開いた。
「授業と関係ないのに、職員室でも数学を教えてくれて
いつもありがとう。感謝しても足りないよ」
「勉強熱心なのが、教師としてはとても嬉しいよ。
何も気にすることはない」
「でも……先生の時間を」
「慕ってくれて俺なんかを頼ってくれるのは、ありがたい」
真剣なまなざしに戸惑う。
車で、送ってくれた時祐希は、運転手席の窓を開けて告げた。
「出逢えただけでも奇跡だな」
思わせぶりな発言は、夕闇の空気に溶ける。
何も告げられないまま、車は走り去った。
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