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第7話

2月。 受けていた大学の入試も全部終わり、あとは卒業を待つだけだ。 必死で勉強してきた結果が、未来につながると信じている。 明日はいよいよバレンタイン。 卒業間際の三年の三学期は登校日も少なくて、 祐希にも会えていない。 胸の中にたぎる想いはくすぶったままだ。 「……何やってんだろ」 できあがった生トリュフを見ながら、つぶやく。 お菓子作り自体、初めてで母親にアドバイスをもらいながら、 何とか完成させた。多少不格好でも上出来だ。 自分一人で作ったんだから。 冷凍庫に入れて、うんうんと頷く。 明日は、登校日ではないが制服を着て高校へ行く。 「喜んでもらえるといいな」 甘いものが好きだと言っていたから、 食べてはもらえるはずだ。 その夜は、そわそわする心を抑えながら、眠りについた。 夕方ごろ、玄関の扉を開けた。 「行ってきまーす!」 元気よく挨拶をすると、母親はあっけに取られていた。 昨日から様子がおかしいと思われていた気もする。 見慣れた建物にたどり着く。 放課後の高校は、部活動をしている生徒の声が、 賑やかに響いている。 所属していたバスケ部の活動は、今日はない。 今日がバレンタインなのは、運がよかったのだ。 職員室に行くと、プリント用紙を机に置いて 唸っている祐希の姿があった。 「……先生」 「どうした。今日は登校日じゃないだろ」 そっけない態度に、歯がゆくなる。 「忙しい時に、ごめん。ちょっと渡したいものがあって」 「大丈夫だ。屋上に行くか」 「うん」 祐希の後ろをついて、屋上への道を進む。 思わず、背中にしがみつくとくすくす笑われた。 「何だ、怖いのか」 「昼間とは雰囲気が違うんだもん」 「逢魔が刻(とき)って言うもんな」 屋上の扉を開くと、すべてを飲み込むような大きな夕陽が見えた。 いつもお弁当を食べていた場所に、二人で座る。 「渡したいものって、これなんだけど」 ごそごそと、学校指定のバッグから取り出したのは、 綺麗にラッピングしたプレゼント。 俯いて、押しつけるように差し出すと優しい声がした。 「……いいのか、もらっても」 「うん。上手にできた自信はあるよ」 「手作りチョコなんて何年ぶりかな。嬉しいよ」 「あっ……目の前で開けないで」 「もう遅い」 ラッピングのリボンは、丁寧にはがされて、箱が現れた。 「美味そう」 祐希は、目の前で指でチョコを掴むと、ぱくっと口に入れた。 何故か、ドキドキしてたまらない。 「ありがとう」 「ううん。でも僕以外からももらったでしょ」 「その気もないのに、受け取ったら傷つけるだろ」 心臓が張り裂けそうなほど、高鳴った。 「先生……大好きだよ。言いたくて言えなかったけど」 背中にたくましい腕が回り、強く抱きしめられる。 「せ、先生!?」 「ありがとう……卒業して大学に行ったら 勉強を頑張って、新しい恋をしろよ」 瞳から零れた涙が、祐希の肩口を濡らした。

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