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第9話

頼んだメニューを持っていくと、祐希は、微笑みを浮かべた。 「追加のご注文がありましたら、またお呼びくださいませ」 「……希望」 「……え」 立ち去ろうと背を向けたら、手を掴まれ、引き寄せられてしまう。 「仕事中なので」 引きはがそうとするも、体格差がそれを許さなかった。 「離せ……っ」 それなら、店員ではなく希望として対応してやる。 「また会えるとは、思わなかった。希望」 「新しい恋をしろって言ったのはそっちだろ」 幸い、引き戸は締めたままだし、声も大きくない。 平気だから、こんなやりとりもしていいのだと言い聞かせる。 抱きしめる力はますます強くなり、うろたえた。 心臓の音は、祐希に伝わっているだろう。 「……あきらめるための方便だ」 「な、何言って」 背中を撫でる手つきに、甘い感覚が起きる。 やめてほしいと言いたいのに言えない。 「教師と生徒という関係は、危うい。 贔屓しているような目で見られるのは、あってはならないことなんだ。 お前だけを特別に見るようになって…… 素直に慕ってくる姿に戸惑いと絆される気持ちがわいてきた。 ……それをこらえるのにどれだけ必死だったかわからないよ。 高校生に対して抱いてはならない感情に翻弄されるばかりで」 熱っぽいささやきが、耳に届く。 頬に口づけられて、そこが熱を持った。 頬から首筋、襟を避けて鎖骨へと唇で触れられる。 「っ……駄目だ」 「好きだよ……ずっと言えなかった」 頭を抱えられて、激しく口づけられる。 厚めの唇が、覆いかぶさり、上唇と下唇をついばむ。 淡いキスは、少しずつ激しさを増していった。 入り込んできた舌が、僕の舌に絡む。 戸惑うままに、絡めとられて、鼻から弾んだ息が漏れた。 「好きだから、抱きしめてくれたの? 」 「……無邪気に聞いてくるな。それ以外に何があるんだ」 「だ、だって……先生と生徒の立場だったし」 キスの合間の会話だから、二人とも息が荒い。 ぷつん、と繋がれていた糸が切れる。 祐希の瞳は、照明のせいか、赤々と 燃え上がっていた。 「伝わってたんだろ」 頭を抱え込まれて、胸の中に閉じ込められる。 「仕事が終わったら、連絡をくれ」 「う、うん」 耳元でささやかれる。 手のひらに握らされたのは、折りたたまれた小さな紙切れ。 開いてみると、連絡先が書かれていた。 「もう逃がさないから」 「……馬鹿」 悪態をつく。 腕の拘束が解かれて、乱れた制服の裾や襟元を整えた。 「ごゆっくりお召し上がりください」 祐希は、口の端をゆがませて笑い、ありがとうと言った。 ぞくりと背中が震えたのは何故だろう。

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