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第10話

バイトが終わった。 居酒屋の更衣室に駆け込み震える手で携帯から連絡先を開く。 さっき渡されたメモに、書かれていた番号を登録していた。 「先生?」 「ああ、希望か」 ワンコールで出た相手に、どくん、と心臓が鳴った。 「これから、どこへ向かえばいい?」 「店の駐車場にいるから、来いよ」 ぷつり、愛想なく切れた電話へのもやもやを吹き飛ばしたくて、 挨拶をすると、駆け足で駐車場に向かった。 「助手席へどうぞ」 運転席の窓が開いて、祐希が顔をのぞかせた。 逸る心臓をなだめて、助手席のドアを開ける。 身を滑り込ませると、隣から香水の香り。 あの時とは違うスポーツカーは、まだ新車の匂いがして やけにどきどきした。 「……会いたかった」 「っ……せ、先生!?」 いきなり運転席から、腕を回されて、頬が染まる。 こんなふうに抱擁されたら、期待してしまう。 さっきのは自惚れじゃなかったって、信じてもいい? 「お前が好きだよ」 「さっきも聞いたから……っ……ん」 いきなり舌が潜り込んでくる。 口内で暴れまわる動きに、身体が火照る気がした。 「は……あ……っ」 「目が潤んでるぞ。感じやすいんだな」 「ち、違う」 「一人でしたことくらいあるよな」 応えられない僕を試すように、祐希は膝で敏感な場所をこすった。 「あっ……っ」 「俺を想ってしてたんだろ? 」 こく、こくと頷く。 そう頻繁じゃない。 月に一度するかしないかだったけど、 寂しさに耐え切れない夜は、自分を慰めた。 真上から降り注ぐキスは、ただ甘くて心を奪う。 「大好き……っ」 「知ってた」 頭をかき抱かれて、キスは続く。 シャツの中に、手を差し入れられて、びくんとした。 乳首を摘まみ、転がされて背がのけぞる。 「ああ……」 「待ちきれないな。お前が欲しい」 いきなり急展開すぎるよ! 神様がいたら助けてよ! 舌を差し出すと、絡められる。 顎を伝う滴、弾む息。 何だか、ちかちかした。脳内で、光が飛んでいる。 散々、乱すだけ乱して、祐希が身体を離した時、すでに息はあがっていた。 「駄目だな……俺もいい歳して理性ももたせられないなんて」 髪を撫でてくれる手つきに酔いしれていると、 ゆっくりと車が動き出した。 それから、車は夜の街を駆け抜けていった。 ラブホなんて初めて入って緊張していたが、 祐希は慣れている風だった。 「この部屋でいいか?」 聞かれても分からないのでこくこくと頷く。 車を降りてからずっと手をつないだままだ。 無人のフロントを出てエレベーターに乗る。 二人ともエレベーターの中は無言で息づかいだけが、聞こえていた。 目的の部屋にたどり着き、ドアを開けると祐希の雰囲気が変わった。 色香をさらけ出し、吐息さえ甘い。 壁に身体を押しつけられ、激しく舌を絡ませる。 両脚も絡ませて密着する。 荒ぶった息は欲情のスピードを上げているようだった。 「先生……っ……あ」 頭を抱えられ、厚めの唇が被さる。 「一人ではキスなんてできないもんな。  ちょっと下手になってる」 「……何言ってんだよ」 一人で自分を慰められてもキスなんて、してなくて 再会してから詰めた距離に背筋がぞくぞくとする。 巧みな舌の動きに翻弄され、自分が濡れたのに気づいた。 「好き……」 「ああ」 言葉は空気に溶ける。 抱擁したままベッドに移動し、もつれ合うように倒れた。 もどかしげにシャツのボタンが外されていく。 (何で、キスしながらそんなことできるんだよ) 指先でシーツを掴む。真上から射貫かれる視線に心臓が跳ねた。 だだっ広い部屋のベッドの上で、生まれたままの姿になった。 祐希の視線が耐えられない。 月明りのせいで、真っ暗じゃないのに! 「は、恥ずかしいよ」 「そんなことない。綺麗だ」 綺麗だなんて、男に言う言葉か!? 「これから、俺が全部もらうんだけどな」 目の前で、すべてを脱ぎ捨てる。 脱ぎ捨てるさまがとてもセクシーだ。 闇の中、浮かび上がった裸身。 その姿に見とれるまま、身を任せた。 覆いかぶさった熱い体は、男らしい。 「先生……」 「祐希でいい」 「祐希……」  ベッドの所にあるライトが、二人を照らし出していて  奇妙にいやらしいと思った。  気持ちを高める材料となっている。

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