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第13話

「希望、どうしてまだ先生呼びなんだ? お前は卒業して教師と生徒の関係じゃないんだ。 名前で呼んで欲しい」 指が顎を掬う。 顔をのぞき込まれると弱い。 「……先生って呼ぶ必要がないんだよね。でも名前で呼んでいいのかな?」 「先生と呼ばれるとイケナイことしてる気分になる」 夕食後、テレビもつけずに無音の部屋の中で戯れる。 「……ゆ、祐希」 「もう一回」 「祐希、大好き」 オプションまでつけて手を握りしめた。 抱きしめられて狂おしい気分になる。 「希望と俺はまだ付き合い始めたばかりだ。 この間はがっついて、初めてのお前に対して無体を強いて我ながら大人げなかった」 「酷いことなんてされてないよ。優しかったもん」 背中にしがみついて頬を寄せる。 「会う度にしなくていいんだよ。そばにお前がいるだけで嬉しいから」 「……え」 言い聞かせるみたいな彼に違和感を抱いたのと、せっかく一緒にいるのにという思いがせめぎ合う。 「そういうことばっかりして、簡単に切れるのは嫌だ」 頭(かぶり)を振る。 「そんなことにはならないよ! 付き合ってはなかったけど二年以上両思いで会えないままだったでしょ。僕は、先生と結ばれてこの先もあるって信じられたんだ」 「祐希……」 「抱いてくれないの? 両思いになれたら、抱かれたいって思ってた」 抱きしめていた腕を離して両腕で身体を突っぱねる。 「はしたないよね。そういうことばっかり考えてるなんて。 祐希に嫌われるくらいなら健全に過ごせるよう努力する」 少し泣きそうになっていた。 俯いていると鼻がつん、とした。 その時、ふわりと腕を引き寄せられて胸の中に閉じ込められた。 痛いくらい強く抱きしめられる。 「苦しい……」 「こっちが必死で堪えてんのに、そんなこと言われたら、もう止まれなくなる」 「止まらなくていい。 そんなに会えなくても寂しくないように満たして」 懇願する。 横抱きにされて、連れていかれたのは浴室だった。 浴室のドアに身体を押し付けられる。 シャワーの音が聞こえてきたのと同時に、キスが始まった。 すべてを絡め取り奪うキス。 「んん……っ……ぷはっ」 息継ぎの間も与えられない 余裕の無さに、困惑する。 潤んだ視界には、照明の下で欲に濡れた瞳があった。 (求めてくれてる) 「……こんなに理性が脆くて、情けない。純粋に誘惑してくるからって」 「……純粋っていうか欲丸出しだったよ」 「純粋なんだよ。だから怖い」 髪をかき撫でながら口づけを繰り返す。 シャワーで服が張りついて肌が透けていた。 「……嫌われてないならよかった」 「逆だ。好きすぎるんだよ」 上唇、下唇を交互に吸われる。 身体が、熱くなってぼんやりしてくる。 キスを返す余裕はないのが悔しい。 不自然に反る身体はたくましい腕が支えてくれる。 身長差は15センチほど。170センチはあっても彼はもっと背が高く身体も大きかった。 スポーツもする人だから鍛えている。ヒョロガリの僕とは違って男らしい体格だ。 だから、抱かれたくなる。 「祐希は、男らしくてすごく色っぽいよね」 胸板に指を伸ばす。手のひらで撫でてみる。 「お前も危うい色気あるけどな」 「ないって。さっき言ったことだって、祐希だから言えただけだから。 他の人には絶対言えない」 「当たり前だ! そんな天然タラシになってもらっては困る」 「……そんなの無理だって。 祐希じゃなかったらこういう筋肉とかも怖いし触れられたくも触れたくもない」 胸元に触っていた手首が掴まれる。 既に衣服の意味を成していなかったシャツのボタンを乱暴に外される。 (はじけ飛ぶかと思った) 「ん……っ!」 胸の飾りに吸いつかれ足をばたつかせる。 大きな身体に押さえつけられて先程より強く密着した。 彼の焦熱は、昂っていて破裂しそうだ。 抱きしめ合いながら、キスをかわす。 今度はこちらから祐希の服を脱がしていく。 躊躇いつつスラックスも引き下ろしたら、こちらも脱がされた。 「……急かすなよ。たっぷり時間はあるんだから」 お湯のたまっていないバスタブの中に下ろされた僕は しばらく祐希が戻ってくるのを待った。 手に持っていたゴムを僕に渡してきたので、 それと彼を見比べた。 「つけてくれよ。御奉仕してくれるんだろ?」 「……っ」 向かいに座った彼に近づく。 そっと下着を引き下ろし いきり立った彼自身にゴムを纏わせていく。 (なんだか、愛おしい) 「よくできた」 頭を撫でてくれてそのまま引き寄せられる。 気がつけば正面で抱きしめあった格好で繋がっていた。 奥まで、力強いモノを感じ恍惚の息をつく。 「……ナカに祐希を感じる」 肩に頬を預けてつぶやく。 「希望っ……!」 最初から、凄まじいストロークを繰り出される。押しては引く波に、頬を涙が伝う。 張り詰めた自身が腹部に当たるのを感じる。 腰を揺らし、背中にしがみつく。 「ああん……っ、もっと来て」 ぐ、と押し付けられて先端で擦られる。 脳裏で眩く火花が散る。 薄膜越しに吐き出され呆気なく意識を飛ばした。 (もっと、繋がっていたかったのに) 「毎日でも抱きたいのは本心だけど」 そう前置きして彼は話を続けた。 「愛し合ってるし身体を求め合うのって、ふ、普通だよね……たぶん」 浴室で抱き合ってからベットでじゃれ合った。 深夜、目を覚ました二人の睦言。 「今、照れが襲ってんの? かわいすぎ」 「……だ、だって、祐希が」 ごにょごにょ。口ごもる。 「……それだけじゃなくて普通のデートもしたいわけ。希望はどうなの?」 「したいよ! 先生と手ぇ繋いで散歩したり、 車で遠くまで行ったりしたい」 「そう呼ぶなって言わなかった?」 「……ごめん。祐希」 「手ぇ繋いで歩いてたら、似てない兄と弟ってことで通るんじゃないか」 「……そうだね。確かに」 「不倫でもなく別に本命がいるわけでもない。 本来は隠す必要もない。でも人目が気になるもんな」 「毎回えっちなことしなくてもいいし、おうちデートがいいかな。お金もかからないし」 覆いかぶさった祐希が、唇をついばむ。 リップノイズが、室内に響いた。 キスが苦く感じるのは、話の内容のせいだろうか。 「……一緒に暮らす?」 今、なんて言われただろう。 「せ……祐希!?」 「普段、一緒に過ごせなくても朝と夜は一緒だ。 お前も家賃のことは気にしなくていいし」 「祐希にばかり負担かけられないよ。 もし同棲するんなら、バイトのシフト増やして、自分の生活費を出す」 がばっと、抱きつかれた。 「お前、いい子だな。 そんなふうに言ってくれるから、甘えたくなるし甘えさせたいって思う」 耳に直接注がれる言葉。 「祐希の提案、胸が痺れたよ。すぐに答え出せないけどね」 抱きしめ返す。 ごつごつした肩甲骨を指で辿り背中に添わせていく。 僕を抱いて満たしてくれる身体。 「……かわいくてそばに置いときたくなったんだ。血迷ったわけじゃなくて」 「……っ、祐希、その……」 すぐに察した祐希が、余裕のていで笑う。 「仕方がない。お前が好きだから」 照れもせず言い放つ。 耳元をぱくっと、食まれる。 押しつけられただけで、腰から震えが走る。 「力を抜いて……息を吐くんだ」 言う通りに深呼吸した。 指が絡められる。 来る! と思った瞬間、貫かれていた。 彼は、遠慮なくナカを掻き回し朝まで僕を乱した。 境い目越しに吐き出され、 脱力した彼がのしかかってくる。 僕は、その身体を支えながら涙を流す。 「……バイトの時間を増やすとか無理をさせたくない。 今のまま、そばにいてくれたら」 愛しい希望の髪を撫でる。 彼は、満たされた表情で眠っていた。 何年もお互いを思っていたことが、信じられず奇跡だと思えた。 ハートに鍵をかけて、恋心を抱く相手(俺)以外、隙を見せず警戒して過ごしてきた。 そんな希望は、俺の前ではひどく無防備で、 純粋すぎる好意をぶつけてくる。 何が起きてもその手は絶対離さない。 「この部屋、お前しか入れてないし、そこは安心してほしい」 「うれしいな」 手を取りの頬を寄せていると、希望はうっすら目を開けた。 腰に腕を回ししがみついてくる。 「くっつきたかっただけ」 そう口にして目を閉じた希望を胸に抱いて、眠りの世界に導かれて行った。

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