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第3話

 喉の乾きに目を覚ますと、既に昼だった。  携帯を見れば、勝から返信メールが届いており、中身を見ると当たり障りなく『お大事に』との一言。  あの言葉を聞く以前の俺なら、心配してくれている。嬉しい。  などと、脳内お花畑な事を思っていたが、今の俺はムカツキしか覚えない。  何がお大事にだ。思ってもいないくせに!  大体、手抜き過ぎるだろ! 一言って!  そーだよ。思い起こせば、これまで返信の殆どが一言だった。  俺がどれだけ長文を送っても『了解』『確認しておく』『未定』とかで、挙句には(笑)だけで澄ませた事もあった。  ご飯作ってくれって頼んでいるくせに、希望のメニューすら返さない。 『何でもいい』とか『任せる』って言うくせに『今日はカレーの気分じゃない』とか『揚げ物重い』とかブーブー文句垂れやがって!  食いたいもんがあるならちゃんと言えよ!  文句あるなら食うな! 胸糞悪い!  あーーーーーーーーーーーー!  一つ思い出すと、芋ずる式で思い出す。  掃除しておいてくれって頼まれて、やったら、勝手に物を動かすなって怒るし! (物の位置が分からなくなるって言うなら、自分で掃除しろ)  洗濯物を畳んだら、畳み方違うって、やり直しさせられたり! (お前の個人的ルールなど知らん)  一緒に晩御飯食べようって誘っておいて、連絡も入れずに同僚と飲みに行っちゃうし! (空腹で四時間待ったぞ、ゴラァ)  何でもいいから目薬買って来てってメール貰って、無難に沁みないタイプを買って行ったら『俺、クールじゃないと駄目なんだよね』って……。 (お前の何でもいいの定義を教えろヤ)  今まで封印していた不の感情が止め処なく溢れてくる。  これはあれだ。一度言葉に出して浄化せねばなるまい。  かの天才漫画家もその昔、自分をいじめていた人間を作品の中で殺して憂さをはらしていたらしいし。  うん。俺も書いて憂さをはらそう。  そうだな。主人公の名はサール・クズマ。  何も持たない人間を落としても面白くないので、創造主たる俺からギフトの詰め合わせを与えるよう。  職業は勇者。  そして思いつく限りのチート能力付与。  更に高身長で金髪碧眼。顔良し声良し匂い良しと高スペック。  但し、性格はクズ。  クズな性格でも、魔物が多発する世界では強大な力を持った勇者は重宝され、富と名声は欲しいまま。女もとっかえひっかえの毎日。  俺TUEEE。俺最高状態。  そんな人生の絶頂期にある勇者を魔王討伐を期に叩き落す。  能力を奪い財産も没収。仲間も複数の恋人も奪ってやる。そりゃあもう、ケツ毛も毟り取らんばかりの勢いで! 勿論頭髪も残さんよ。男性機能も封印だ!  ああ。  性格クズな勇者の泣きっ面を想像していたら、何か楽しくなってきた。  ふふっ。  俺は書く! 書くぜ!

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