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不毛な三角形は、こうして混迷する2。

お姉さまたちが、にやにや笑いながらランチを終了させ店から出て行った後、黄さんが昼食に用意してくれたのは、鳥の胸肉にチーズ、紫蘇を挟んで揚げたチキンカツと庭で収穫したピーマンを軽く焼いて鰹節を和えたもの。豆腐とうす揚げが入った味噌汁と土鍋で炊き上げた五穀米にプチトマトがガラスボールで山盛り出された。 「食べ切れない分はお持ち帰りしろよ」 「うん。ありがとう」 僕がいそいそと何よりも先にプチトマトに手を伸ばして、もぐもぐするのを見て黄さんが吹き出すように笑う。別に意地汚いとかそう理由ではなくて。(・・・そ、そうじゃ、ないよね?) 「誰も取らないから安心しなさい」 「・・・そんなの知ってる」 ただ好きなものは一番はじめに食べたい派なのです。それにシェアがイヤとかでもないのを証明したくて、その薄く形のいい口にプチトマトを持っていく。ノリに付き合ってくれるらしく、ぱっかり開く。愉しい。 「美味しい、でしょ?」 「ああ。斑に食べさせて貰ったから、な」 「!」 間近で大人の男の色気というものに当てられ、どきどきし過ぎて心臓に悪い。 「・・・ぼ、僕で遊ばないでください」 「遊んでねぇの。俺の目の前にいる中学生が超が付くほどかわいいから誘惑してんの」 お返しにとガラスボールからひとつつまんで口元でほらほらと振られる。自分のしたちょっとした事を自覚して、ぶわっと顔に熱が集まる。これが家ならぎゃーと叫んで転げ回っているところだ。現在、珍しいことに自分以外誰も居ない状況だが。それでも周りをしっかり確認して。(こういう黄さんはしつこいから渋々で)恥ずかしいのを堪えつつ、そっと目を伏せるようにしてギリギリ開けば、舌の上にコロリと乗せられる。それだけならば問題ないのだけれど、 (な、ないよね?)おまけとばかりに引く指先は軽く撫でていき、背筋にぞくりとするような震えが走った。僕はそれが黄さんにバレるのは悪いように思えて、膝を擦り合わせて必死に隠す。・・・まぁ、しっかり観察されてたんだけどね。 そんな怪しい雰囲気を除けば、ゆったりとした心地よい時間に美味しい食事は、あっさり僕を安定させたわけで。大人な黄さんと会話を交わしつつ、僕は自分が自然と笑えているのを意識したのだった。 だからこそ、 「で?学校で何があったんだ?」 とズバリ直球で聞かれた時には動揺せずに済んだ。・・・ただし、時間にして5秒だけ。 「・・・同級生が、夏休みに合宿するって。それで、僕のところで、どうかなって話になった。意味がわからないよ」 「嫌なのか?」 「嫌・・・じゃない」 「そんな顔しても説得力ねぇぞ。乗り気じゃないってことは嫌だって事だろ。そもそも同級生が苦手なくせに」 憂鬱そのままに、ため息を吐き出すと額を小突かれた。 「箸が止まってる」 僕の食事が終わるまで続きは保留とするらしく、どことなく難しい顔で黙る黄さんを横目にしつつ、最後の一口をごっくんして、ゆっくり手を合わせた。 「ごちそうさまでした」 お皿を纏めて立ち上がると、それは手の中から消え、代わりにコーヒー。 「それを飲んでおとなしく待ってろ」 隠れスポットのオシャレカフェなので、いっときの貸切状態が嘘のように直ぐに、お客さんが途切れなくなったので、黄さんは定番のワンプレートデザートを手早く作っては何度も運ぶ。だから何が言いたいのかというと、黄さんはすごく忙しいので自分の使ったお皿くらいは洗いたかったのだ。いつものように許して貰えなかったけど。 「僕、出来るよ」 「知ってる。でも俺の仕事だ」 ドアベルが鳴ると僕に貼り付けた視線が外れる。 どことなく煩わしそうな感情を顔に一瞬だけ浮かべ、でも、さっと動いてお客さまの注文を受けては提供するを繰り返す大きな身体。 「僕、こんなに甘やかされたらダメな子になるよ」 少し客足がゆっくりしたところで、むっつりと言うと、黄さんは僕の髪に指を潜らせ頭の形にそうように梳く。とても嬉しそうに。 「なっていいよ」 っていうかコレ決定じゃないかな?

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