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清春兄さんは、だらしない。 目隠し03。 | 帝都防衛隊の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
清春兄さんは、だらしない。
目隠し03。
作者:
帝都防衛隊
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目隠し03。
来
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こ
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より
去
(
さ
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よりをお供にして、兄さんとおしゃべりしていたら、あっという間に玄関に到着。すごい。暗い道が、ほんのちょっとだけ苦手だったのに、なんだか全部忘れていた。 まずは来よと去よの足元を拭いて…。肉球、かわいい。あがり口に下ろすとカチカチ爪音を立てながら廊下をうろうろしている。それを横目に眺めつつ自分の靴と、お待たせ中の兄さんの靴を受け取って所定の場所に片付ける。二匹も兄さんも僕を置いて先に行ってもいいのに、律儀に待っててくれるから、ほっこりさせられてしまった。振り返って学生鞄を兄さんの手から貰い受けて、少し首を傾げ見上げると兄さんは口の端を持ち上げる。い、色気がやばいです。あなたの弟相手なので、それは引っ込めてくださいと声を大にして主張したい。 「あちらには顔を見せて挨拶したよ。綾子さんも子供たちも元気そうにしてたから、まーくんが心配するようなことは何もなかったね」 「ええっと、こちらにはお泊まりしなくても、相談にだけ乗ってくれればいいのですが」 目を細める兄さん。あれあれ、これは何か押してはダメなスイッチを押した、かも?身体が自然と後ろに下がりかけ、それを読んでか、ずいっと詰めてきた室生兄さんにあっさり捕獲される。腰に回される硬い腕。…吸汗速乾の薄い布越しだからか兄さんの温もりがなんだか生々しい、とか全然思ってませぬよ。ドキドキ。 「斑くん。先ほどあのケモノ共に言ったことは、この兄にはないのかな?」 示す先は少し離れたところで、ふりふりと、かわいく尻尾を振る二匹。はは、兄さんにはあの子たちはケモノですか。 「あの子たちとは本当に久し振りですし、兄さんとはずっと一緒でしょ?」 僕よりも兄さんのご家族の方が寂しいと思うからそう簡単には言えないよ。子供たちはお父さんと遊びたかったはずだもの。 「貴重な時間というのはね、兄さんの大事なかわいい、かわいい、まーくんを独占できる今もなんだってわかって欲しいな。清春がいたらあいつは斑くんから離れないからね。心当たりがないとは言わせないよ。そして兄さんは言いたい。会えなかった間、ずっと寂しかったってね」 僕にその美貌をずいっと近づけるのはやめてください。 「わかりました。わかりましたから!」 ピッタリとくっ付かれたら、ざわざわする気持ちが落ち着かないので離れてぇ。とか心の中で大騒ぎしている横で、 「…おい、お前たち、何のつもりだ」 がるるぅと足首に噛み付く二匹を見下ろして兄さんは冷気溢れる重低音で唸る。どうやら彼らには嫌がる僕を兄が無理やり捕獲しようとしているように見えたらしい。男気溢れる行動にキュンキュンとした。しかし、だ。兄さんにも、来よと去よの二匹にも勘違いされるのは嫌なので、僕は自分から兄さんに抱きつく。意識操作したければこれが一番の近道なのです。 「兄さん、僕も兄さんと一緒なのは嬉しいです。兄さんが僕を優先してくれるから綾子さん達には悪いけど、ひとりで怖いとか寂しいとか感じたことないの、わかってるもん。今日もありがとう。大好きだよ」 だからこそ、古傷が疼くように何度も、忘れた頃に罪悪感がムクムクと甦っては僕を責め立てるのだと、今回も口には出さない。だってこれを兄さんに言うと室生兄さんによる長々とした話、「僕のことがどれだけ大事なのか」を熱く語ってくるからね。ぐぅっと口から飛び出さない踏ん張りが効いてか、思惑通りにそれには気づかれず、兄さんは僕が自分から抱きついてきたことで、すっかり機嫌を直してクスクス笑う。おまけに僕を小さな子供のように軽々と抱き上げて歩き出した。そしてなんと、かわいい愛犬たちには勝ち誇った顔を向け、どちらが上位なのかをしっかりと知らしめ、ガウガウ大興奮する二匹を蹴散らかすのであった。…もぉ大人気ないですよ! ペチペチと二の腕を叩いて注意をするも、頬に唇を押し当ててくるので、完全に誤魔化す気なのは丸わかりで。 「斑くん。斑くん。俺のいちばん大事で特別な子。もっと、もっと兄さんなしでは生きていけないくらいになってね」 すごくダメなことを甘く囁いては、何度も唇を舐め舐め。これは兄さんが言うところの、口を開いての催促ですかね? 僕がいつものように素直に受け入れると思っているのだったら間違いだと、ピタリと閉じ合わせたままでいると、焦らしていると思われたのか、舌先でするりするりと歯を擦ってきた。僕としてはかわいい去よと来よに謝るまで許しません。決意はとても固いのだ。しかし、しかしですよ。 「兄さんもね、大好きなんだよ。…まーくん?」 と、こんな風に、…耳に直接吹き込むように、ひそひそと囁くのは反則だと思う。僕の本気なんかサラリと覆しちゃうのだから。見やると室生兄さんは美しく微笑んで、再び唇を合わせてきた。僕は…頭の中で沢山の言い訳をこねくり回してから、去よりと来よりには視線だけで室生兄さんの行いを深く謝罪し、(兄さんより紳士的な二匹がこくりと頷く。かわいいなぁ…)そっと顎の力を緩めるのであった。こんな兄さんでホントごめんね。 お食事よりも先に汗を流すことにした兄さんは、抱き込んでいた僕を腕の中から解放して一緒にお風呂に入ろうと誘ってきた。僕は謹んでお断りし、一旦部屋に引っ込んでから藍染の甚平、今回は清春兄さんの小学生時代のお下がりに着替える。悔しいことに腰回りと肩幅の感じから、やっぱりまだ少し大きい。兄さんたちの時は毎年、
竹の子成長期
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に合わせて仕立てていたというのに。僕のはどこに行ったのだろうか?このままでは来年も使い回すことになるかもしれない。恐ろしい。最終目標は兄さんたちより大きくなることなのに、とため息を吐いて、夏の定番普段着、清春兄さんと室生兄さんのお下がりの作務衣が沢山並んだ衣装棚の扉をパタリと閉じて部屋を後にする。 現在の時刻、母屋にいた使用人たちは
奈落噺
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兄さん
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の帰宅に合わせて全員が下がっているので、食堂でパタパタと慌ただしく動き回るのは、この僕です。いつもとは逆の立場で兄さんをお世話するという役割はとても貴重だと思うし、何より将来を見据えたトレーニング的な観点からは重要だ。…と、難しく言ってみたけれど、ただ、何よりも兄さんと一緒が愉しいので張り切っているとも言う。キッチンを往復して配膳を整えたあと、お酒を選んでいると視線を感じて右を見る。早々とお風呂から上がったらしい兄さんが柔らかく微笑んで僕を見つめていた。 「斑くん、かわいいね。来よりと去よりが騒ぐはずだね」 「……!」 早すぎる登場に焦るよりも僕は鼻歌を歌っていたところをじっくりと眺められていたらしいことに気付かされて、全身からぶわりと汗が吹き出る。羞恥に悶え、はぁわわわーと手をパタつかせていると、とんでもなく楽しそうな兄さんがするりと近づいて僕に対してかわいいの大安売りをするので、それを止めて貰うべく限界まで背伸びをして兄さんの唇を手で塞ぐ。 「もう、それはいいです。どうせなら我慢せずに大きい声で笑っちゃってくださ、わっひゃッ!」 手のひらを舐められた! 飛び跳ねた僕の肘がお酒の瓶の列を崩しそうになったところをさらっと腰を支えて、室生兄さんに引き寄せられて密着。僕の頭に顎を乗せるようにして、お酒を選ぶことにしたらしく、しばらく捕獲されたままだ。 「今日はこれにしよう」 選ばれた濁り酒の瓶と共に僕は解放されて、受け取ったそれをテーブルの上に用意していた朱塗の盃に慎重に注ぎ入れる。僕たちの間の決まり事として、小さな神棚に供るのは、いつも兄さんたちのお役目だ。決して天井高い位置にある神棚に僕の手が届かないという理由ではないよ。僕がしようとすると兄さんたちが怒るのだから仕方がないのだ。盃を掴んだ兄さんは視線をしっかりと合わせてくる。 「まーくん、わかっているとは思うけど、兄さんとの約束事は絶対に守ってね」 そう、これは僕たちの間で守らなくてはいけない儀式のひとつ。でも僕がお酒を注ぐことには、何かしらの意味があるらしいけど、兄さんたちからは秘密にされているので、実のところ大した理由はないのかもと、ちょこっとは思ったりしている。ただ単に踏み台を使わなければ届かないからだけかもしれないし。 室生兄さんが楽々と腕を伸ばして盃を捧げる。それを待ってから一緒にテーブルに着いた。楕円の木製テーブルは大家族仕様で広く、毎日場所替えできるのだけれど、なんとなくいつも同じ場所を選んで隅っこに固まって座ってしまう。ちなみに食堂にはテレビは置かれていないよ。 本日の夕食のメインは鶏の胸肉である。加熱すると固くてパサパサするから嫌いな人もいるかもしれないけれど、これがなんと、ひと手間かけるだけで大変身してくれるのだ。まずはなんでもいいから手頃なガラス瓶を用意して、それを逆さに持ったらその瓶底で繊維を解くように軽ーく叩いて、叩いて、叩く。これだけで十分柔らかくなるのだから淡白な味を好む人は、もも肉よりも満足すると思うよ。お肉の用意が整えば、あとはジップ付きのビニール袋に特製スパイスと一緒に入れてじっくり低温でボイルするだけだしね。ボイルが終了したら、胸肉をしっかりと冷ましてそぎ切り。中華風のピリ辛タレを掛けてから、さらには青ネギとガリックチップスをたっぷり振りかける。 数品ある小鉢は兄さんたちに好評すぎて近頃定番化しつつある、薄くスライスした蛸に胡瓜と大根を絡めた酢の物、鯵の南蛮漬けも甘酸っぱくて好きだ。これがまた暖かいご飯に合うんだよね。口に入れた瞬間、思わず何度も頷いてしまう僕を、横から兄さんがにこにこ微笑ましげに見ているのに気付かずにもぐもぐして。それでも兄さんのお皿の上だけはしっかりとチェックしていたから、一度箸置きにお箸を置いて、大鉢にこんもり盛られた自家製豆腐とたっぷり生野菜のサラダをたっぷりと取り分ける。使われる葉物野菜とオクラは裏の畑から夕方の水やり前に収穫したばかりでシャキシャキ。ふたつある藤の網かごの中身は、潰したジャガイモにマヨネーズと軽く塩をふり入れて小さく丸めてオリーブオイルで揚げた物で、もうひとつは見た目は同じだけれど、おからドーナツで山盛りになっている。食後のおやつに揚菓子は胃に重いかなとは思うけど、暑い時に無性に食べたくなるものなのです。 ご飯を食べ終わったら2人で隣に並んで食器を洗う。我が家の使用人さんたちは勤務時間が終わってるし、それに汚れた食器を明日まで持ち越しとか、気持ち悪いからね。これだけなら5分もあれば、ちゃっちゃと終わる。僕も黄さんのお手伝いとかで慣れてますから。 残ったおからドーナツは冷蔵庫にしまって、代わりに冷茶をグラスに注ぐ。その間に兄さんは蚊取り線香に火をつけてくれて受け皿にセット。兄さんの手が僕の手を掴んで引き寄せて一緒に縁側にまで行き隣合って座る。風が気持ちいい。 冷茶で口を湿らせて繋がった手をプラプラ揺らす。 僕としては、この沈黙中はごちゃごちゃした頭の中の整理に充ていた訳で。どれから話せばいいのか迷っていたのだ。もう時系列的に起こった出来事順でいいのではと気づいて、グラスをお盆の上に置いて、ズレてきたメガネの位置を正して口を開く。 「ええっと、今日、学校で頼まれごとをされたので、兄さんに相談したいなぁと思っていたのですが」 僕は帰る間際の同級生からの
お願い
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合宿
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の話をする。詳しいプランとかは詰めてないので2分もかからずに終了。まぁみんなで勉強するから家を貸してくれませんかってだけだしね。日程は夏祭りにも行こうねって話をしていたから、お盆期間中、一泊二日から二泊三日くらい予想かな。 チラリと視線だけで兄さんの顔を確認。すごくいい笑顔。蕩けてますね。あれ、意外と合宿に好意的なのかな? 「奈落噺の家長は両親だけど、留守の間の決定権は兄さんにあるからね。まーくん、相談事はいつでも遠慮しないでね」 違った。ただ僕に頼られたことが嬉しかったみたい。もう!合宿は許可してくれるんですか? 「もちろんいいよ。許可する。ただし、親御さんには
何が起こっても
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奈落噺に責任はありませんよって書面にはサインして貰うけどね」 さらりと額に掛かる髪の毛を梳き上げられて、ゆっくりと兄さんの美しい顔が近づいてきて目の中を覗き込まれる。 「安心しなさい。まーくんが想像しているよりも参加者はそれほど多くならないから。古くからの住人組は親が反対するだろうしね。まぁ、でも中学生で反抗期なら押し切るかもしれないか?でも祖父母と同居している子はだめだろうね。しっかりと郷土史を叩き込まれているからね」 明日学校に行くときに持っていけるようの誓約書は用意しておくからね。と兄さん。出来る男は仕事が早い。僕は一仕事終えた気分です。はぁーと無意識に安堵の息を吐き出すくらいには。 「おやおや、斑くん。この案件、同級生たちから強要されたんなら兄さん、ちょっと平常心でいられないよ?」 目敏い。黄さんのところに行くまで、ぐらぐらよろよろしていたのは日頃から僕が弱いせいで、みんなが悪いわけではない。過保護モードに入った兄さんには通じないだろうけど。どうしてこんなに兄さんにはいろいろとバレてしまうのだろう? 「……僕も中学生活最後をみんなと一緒に楽しみたいなと思ったんだよ」 兄さんの完璧な微笑みが怖い。うーん、どうしたら意識を逸らすことができるかな。って、よくよく考えてみると僕、今日1番気になっていることをまだ室生兄さんにお話ししていない!ゴックリ唾を飲み込み、
真剣
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シリアスモード
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な雰囲気を察して兄さんも真顔。 「室生兄さん、驚かないでね。清春兄さんは男の方とお付き合いしています。それも二股です!その片方はなんと要くんで清春兄さんの本命で、僕はちょっと清春兄さんを独占しすぎていたのではと思いまして、」 ?室生兄さんの肩が上下に揺れている?あれ?これはひょっとして、 「笑ってる?」 ぽつりと呟くのが聞こえたのか、兄さん爆笑。足元で遊んでいた来よと、去よも良く見るところころ転がってニシシと笑っている。酷い。 兄さんが笑い終わるのをただ待つ僕。わかりやすく拗ねています。 「き、清春の本命、ね。兄さん知らなかったよ」 まだ爆笑のなごりを目元に残して、兄さんはなぜか暗がりの一点に目を数秒止めてから、拗ね拗ねモードの僕のご機嫌を取ろうと膝に横座りさせ抱きしめてくる。 「二股するとか、悪い男だねぇ。兄さんはもちろん、まーくん一筋だからね」 いや、そもそも兄さんには家族があるんだから、むしろそれ問題発言! 僕は自覚を促すべく、にぎにぎしてくる手をペシっと叩くのであった。
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