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1・西城春哉の憂鬱

 広い洒落た部屋に、安物の酒瓶や缶ビールが転がっている光景の中、オレ―西城春哉は、夫の帰りを待っていた。  夫とは学生時代に番になり、卒業と共に結婚し、それからはこの都内の高級マンションにずっと住んでいる。  夫の顔を思い出し、オレは酷く沈んだ気持ちになった。  夫は家には殆ど帰ってくることは無い。  理由は明白だ。  夫にとってオレと言う存在が邪魔な存在だからである。  夫とオレは愛し合って番になった訳じゃない。  夫である西城誠一郎は、高等部の生徒会長を務めていた優秀な男で、当時3年生の時にやって来た転校生を気に入り、生徒会メンバー全員と共に常に行動していた。  そして、転校生のルームメイトになったオレもまた、常に行動を共にする結果となったが、違うのは、オレが転校生の事を別に好きではなかったというところだ。  そう、オレは当時から、夫である誠一郎に惚れていたのだ。  ただ、不良でガタイも良かったオレと、誠一郎が付き合えるはずはない為、あえて突っかかったりして、構ってもらえることだけを地味に喜びにしていた。  高校生はバース性が判明する時期だが、オレはまだその頃はバース性は不明だった。  誠一郎はαと既に判別されており、校内の噂では、Ωだった転校生と卒業と共に籍を入れると言われていた。  正直、ショックではあったが、諦める以外にないと当時は思った。  だが、事件は起こってしまう。  その日、突然具合の悪くなったオレは、近くの空き教室に逃げ込んだ。  それは間違いなくヒートであり、保健体育の授業で習ったその異常な性衝動の特徴は、紛れもないΩのものだった。  身体が熱くてどうしようもなく意識が朦朧とする中で視界に映ったのは、驚いた誠一郎の顔だったのを覚えている。  そこからはもう、最悪な話だ。  オレの意志も、誠一郎の意志も無視して、本能のままオレたちはセックスをし、誠一郎がオレのうなじを噛んでしまった為に、オレたちは番となったのだ。  結果、誠一郎はオレなんかと結婚することになってしまった。    誠一郎は根が優しい男だから、責任を取ってはくれたものの、当然オレを愛せるはずも無い。  誰が愛する恋人との仲を引き裂いた男を愛せると言うのか。  だから、ヒートのたびに義務的なセックスをする以外は、あいつは家には帰ってこなかったし、そんな中で唯一望まれていた子供も、オレはあいつに抱かせてやることが出来なかった。  結婚して4年目でやっと妊娠したのに、オレの不注意で転んでしまい、流れてしまったのだ。  それからも何度も子供を作ろうとしたが、3年経過しても再び妊娠する事は無かった事から、誠一郎の親からは離婚するように言われている。 ――愛情もなければ、子供も居ないなんて貴方の居る意味があるの?    お義母さんの言葉には、さすがに堪えたな。  ただ、どんなに言われても別れたくなかった。  意図して手に入れたわけではないけれど、それでも一緒になることが出来た奇跡を、手放したくなかったのだ。    どんどん心が病んでいくのが分かるけれど、どうしようもできない日々。  そんな風に、暮らしていたある日の事だった。  寂しい孤独な生活を送っていたオレの所に、あの子がやって来たのは。

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