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8:河童の疾走
おいらは、とんでもないことをしてしまったらしい。
おいらがあの日治してしまった傷痕は、とても重要なものだったのだ。
時折、金髪がこの傷があるからと零していたので、傷が嫌なのだとおいらは思っていたのだ。
――二人は、そのまま別れてしまった。
金髪にくっ付いて田舎に引っ込んでから、半年が経過している。
罪滅ぼしに金髪に何かしたかったけれど、おいらが出来る事は何もなかった。
ただ側にいる事しか出来ないのだから、役立たずだ。
金髪は口では清々したと、別れられて良かったと言っているが、おいらは知っている。
今でも、ぺらぺらのお布団の中で、金髪が泣いている事を。
あの泣き虫男の名前を寝言で言っている事を。
「男ならばどんなことでも責任を取らなければいけないよ」
父が言っていた言葉を思い出す。
おいらは走った。
街に向かう車に乗って、次に電車に乗って、泣き虫男の所へ。
別れたいのは金髪男の本心じゃないと伝えたくて。
泣き虫男は、古い建物から出てくる所だった。
看板には区役所と書かれていた。
ここはきっと別れるために来る場所だ。
姿が見えないのは分かっているけれど、おいらは泣き虫男の足にしがみ付いた。
余計な事をしてごめんなさいと。
けれど、おいらの頭を、見えない筈の泣き虫男の手がそっと撫でた。
そっと見上げると、泣き虫男としっかりと目があう。
「大丈夫だ」
そう微笑む、泣き虫男の目はとても優しい目をしていた。
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