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第2話
待合室には他にもう一組、男女の番が隅の方にいてなにやら口論をしている。
聞こえないように小声で話しているつもりだろうが、待合室が静かすぎるためにこちらにまで口論の内容が聞こえてきていた。
圭も寿史もそのことには触れず、成り行きを傍観することにした。
「どちらかの身体の……その……子供ができない原因があるかもしれなから検査するって。あと、マッチングテスト用の新しいサンプルもついでに採るって」
「原因って……そんなの登録する時にちゃんと受けただろ? それに俺達、定期検査もちゃんと受診してたから問題ないのはわかってるんじゃないのか?」
お互いの身体になんら問題がないのは当の本人である二人にはよくわかっていた。
この三年、子供ができるようにと圭の発情期には必ず性行為をしたし、発情期以外の日にもしていた。
遺伝子の組み合わせが良いせいなのか、身体の相性はとても良かった。
はじめての顔合わせの時から、お互い何か惹かれるものがあった。普通、このマッチングで出会った二人は数回のデートをしてから返事をするのだが圭と寿史は会ったその日に番になることを決めた。
きっとこの人となら上手くいく。
お互いそう信じて書類にサインした。
「うん……だけど、決まりだからって……」
実際、この三年間の暮らしはとても楽しかった。
趣味も合ったし、食の好みも似ていた。一緒に暮らしてもなんの苦痛もなく、毎日が平凡で穏やかだった。
「圭の負担になってるよな……」
「そっちだって、嫌だよね……」
「俺は別に……」
書類に視線を戻して寿史は口籠もった。
「……早く次の番が見つかるといいな」
書類に自分の名前を書いて、そう言った寿史に圭の胸はツキリと痛んだ。
自分を思っての言葉だというのに、次の番の話しをされると悲しくなる。そんなに簡単に次にいけるほど冷めた関係ではない。
子供を産むだけなら番になる必要なんてない。発情期に外を出歩けば簡単に相手など見つかる。
けれど子供だけがほしいのではない。国からの援助だけが目的ではない。
この三年、寿史とは仲良くやってきた。番になって平穏に暮らして、三年もあれば子供もすぐにできて家族になれる。そんなふうに考えていた。
どうして子供ができないだけで番を解消しなければいけないのだろう。確かに発情期の行為で子供ができないのは珍しい。そんな例はほとんどない。どちらかの身体に問題があれば子供ができない可能性はあるが、圭と寿史にはどんなに詳しく調べても何の問題もなかった。
援助をする国としては少子化対策のために導入したシステムで子供ができない番をそのままにしておくわけにはいかない。支援金を無駄に使わせることはできないのだ。
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