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第3話

「二度目のマッチングなんてそんなすぐに見つかるとは思えないよ……。それに、二度目だなんて相手が嫌がるんじゃないのかな? もしかしたらもう誰とも番にはなれないかも」 「そんなことっ……」  マッチングが上手くいかなくて番を解消するケースは子供ができないという理由だけではない。  番になってみたら性格が合わなくて性行為をするまでに至らなかったり、子供が産まれてから関係が悪化するケースもある。  だから余計に辛いのだ。寿史とは絶対にうまくやっていけると感じていた。子供が産まれたらもっといい関係になれると。  言葉にはしたことは一度もないけれど、お互いに好意は持っていた。それは恋愛感情というものだったはずだ。  番になるために項を噛まれたあの日のことを圭は今もよく覚えている。  普通に出会って恋をした相手ではないけれど、思わず涙を流してしまうくらい幸せな気持ちになった。  あんなに満ちあふれた幸せな一瞬は、絶対に忘れられない。  番になって共に暮らして、相手の知らなかったことを知り、好ましいことを好きだと素直に思い、嫌だと思ったことをきちんと話し合うごく当たり前の生活。  Ωでもαでもβでもなく、人間らしい日々。  そんな日々は二度と来ないだろう。たとえまた番える相手が見つかったとしても、初めて項を噛まれたあの感情は二度とない。 「書類出してくるね」 「ああ……」 「ついでにトイレ行ってくる」 「わかった」  寿史の分の書類も持って受け付けに提出すると、圭はそのままトイレに向かった。  二人でいるのは辛い。会話しようにも何を話してもお互いを傷付けそうで。  待合室を出て長い廊下の途中にあるトイレに向かうと急に胸焼けに似た気持ち悪さを感じて慌てて個室に入り胃液を吐き出した。  今回のことで精神的に参っているせいかもしれない。  番を解消する方法は一般的には死別のみだけだ。それをどうやって解消させるのかはまだ知らされていない。極秘事項扱いになっているらしく、診察と心理カウンセリングを受けた後に解消のための処置を行う。  過去にこのシステムで解消になった番から出たとされる噂話を訊いたことはあるがどれも眉唾ものだ。  吐けるだけ吐いて顔を洗ってから、トイレを出ると落ち着くまで少し廊下で時間を潰すことにして溜め息を吐きながら壁に凭れた。

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