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第4話

「あら?」  すぐ隣の女子トイレから出てきたのは先ほど待合室で言い合いをしていた女性だった。 「ああ……どうも」  軽く会釈をすると女性は何も言わずに圭の隣に並んで壁に凭れた。  言い合いの最中、彼女は涙をポロポロこぼしていた。そのせいで隣にいる彼女の目は腫れてしまって、化粧で隠しても隠しきれていない。  あんなふうに感情任せに泣けたなら良いのに。けれど泣いてしまったら寿史を困らせるだろう。どちらのせいでもないのに、寿史はずっと圭に謝ってばかりだ。 「さっきは騒がしかったでしょ? ごめんね?」  腫らした目で苦笑する彼女に圭は「いえ」と小さく返事をした。 「私たちね、番になってまだ一年も経ってないの」 「え……?」 「早すぎるわよね」  それでも笑ってみせる彼女は見ていて痛々しかった。  俯いて笑う彼女の項には噛み痕がまだしっかりと残っている。  番になった証拠。αに噛まれたその歯形は時間とともに少しずつ薄くなっていくけれど、決して消えることはない。  解消したらこの痕はどうなるのだろう。きれいさっぱり消えてしまうのだろうか。 「待合室、まだ戻りたくないんでしょ?」 「わかります?」 「わかるわ、私もだもん」  待合室は静かすぎる。登録しに来た時は人が沢山いたからこんなにも白い色が目に付くとは思っていなかった。  まるで関係を全部、真っ白にしろと言われているみたいだ。 「私たちね、かなり慎重に会う回数を重ねて番になるって決めたの。決めるまでに半年かかったのよ」 「半年も?」  マッチングシステムで番になるかどうかを決めるのには平均で二ヶ月だと言われている。圭と寿史にいたってはその日に即決めた。 「絶対にこの人だって私は思ってたのよ? 初めて会ったときから」 「じゃあなんで半年も?」 「だって番になるって私たちΩにとって重要なことでしょ? 今までずっと発情期に悩まされて生きてきたのよ? それがたった一人のαだけに発情するようになる。そのαだって慈善事業で番になるわけじゃないもの。一生、私一人になるの。番ってからやっぱり違うって言われたらショックじゃない? だから本当に私と番っていいかちゃんと考えてから答えてほしかった。何回も会って、沢山デートして、普通の恋人同士みたいな時間を過ごしたの」 「……それなのに、解消するんだ?」  そこまで慎重にしてもこの二人は解消するのだ。 「そうよ……何回もイヤだって言ったけどダメだった……」  彼女は目を潤ませて鼻水をすすった。

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