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第5話

「遺伝子の組み合わせで選ばれた相手なんて、運命だって思わない?」 「運命……?」 「そうよ、運命の番。都市伝説だって言うけど、遺伝子レベルで相性がいいんだから運命の番なんだって私は思ったのよ……。とても強い絆なんだって……」  圭はそんな都市伝説など信じてはいなかった。あったらいいなと思うくらいで、実際にそれで結ばれた番同士に会ったことはないし、話に訊く「どうしても惹かれ合ってしまう」という感覚がわからなかった。  寿史ともこの人とならきっと、とは思ったが強烈に惹かれたとは言い切れない。  どちらかといえば、ゆっくりと関係を築いていった。 「でもね、違った。私は運命じゃなかった。あの人は出会ってしまったのよ――本当の運命の番に」  強烈に惹かれ合って、他に番がいても本能がそれを許さない。  誰かを傷付けてもどうしても抗えない。  それが、運命の番。 「お願いだから番を解消しないでって泣いて縋っても、このままこの関係は続けられない、どうしても無理なんだって……」  そう言ってせっかく直した化粧を気にもせずにまた涙を流し始めた彼女を、圭は呆然と見つめていた。  彼女の立場に自分もなりかねない。寿史はまだ出会っていないだけで、この世のどこかに惹かれてやまない運命の相手がいるのかもしれない。そう考えるだけで胸が張り裂けそうだ。  もしも寿史との間に子供ができたとしても、寿史が運命に出会ったらどうなるのだろう。彼も運命の相手を選ぶのだろうか。 「でもね、それって、私にもいるかもしれないってことよね……」 「いるって……なにが?」  その答えは聞きたくなかった。けれど、聞かずにはいられなかった。 「私にも運命の番がいるって、そういうことよ」  もしも、自分の方が先にその運命に出会ったらどうなる?   ずっと優しかった寿史を捨てて、運命の相手を選ぶのだろうか、自分も。 「そんな顔しないでも、あなたのとこは大丈夫よ」  涙を拭きながら彼女は強がりの笑顔を見せた。

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