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第6話

「マッチングで選ばれた相手とは思えないくらい仲良さそうだったもの。なんで解消しなきゃいけないのか不思議だわ」 「うちは……三年ずっと一緒だったから」 「じゃあ……」  圭は黙って頷いた。  三年の期限で解消するのは支援の打ち切りを意味する。つまりは国からの条件を満たせなかったということだ。 「お互い、なんの問題もないんだけどね。それでも子供ができなかったから……」 「そう……」  マッチングで番になったαとΩは何組もいる。その中には条件を満たして子供を作り、支援を受けて何不自由なく暮らしている者が多数いる。  解消を選ぶのは彼女たちのように別の誰かを好きになってしまったり、二人にしかわからない問題がある時だ。 「残念ね……。お互い思い合っているのに……」 「そう見える?」  お互いの気持ちを確認しあったことは一度もない。自分の気持ちと同じだったら嬉しいけれど、違ったら悲しい。  怖いのだ。もしもこの三年の幸せな生活が一方通行だったと思いたくない。 「ねぇ、あのね、あの人もとても悩んでくれたの。時間をあんなにかけて番になったのに、こんなことになって……。ほんの少しの番関係だったけど、それでもとても幸せな時間だった。だから運命の番に負けたくなかった」 「……わかるよ」  寿史に運命の相手が見つかったら、負けたくないと思うだろう。  こればかりは本能が突き動かす衝動だから誰も悪くない。相手も自分と同じΩだ。似たような苦労をしてきたと安易に想像できる。 「でも相手もΩなのよね。私たちと同じ。Ωが一人幸せになれるってこと……。だから決めたのよ、このマッチングを解消するって。私にはきっと、もっといい人がいる、絶対」  まっすぐ前を見据えて彼女は綺麗な涙を流した。  化粧が崩れていてもそれはとても美しかった。 「あなたが幸せになれるたった一人の人は、今の人じゃないの? このまま解消していいの?」 「でも、決まりだから……」 「そうだけどっ……決まりよりお互いの気持ちでしょ? ちゃんとその気持ち、伝えておかないと後悔するわよ? 私はもう、言いたいこと全部言ってそれでもダメだったから諦めがついたけど、あなたはそうじゃないでしょ?」  圭本人よりも彼女のほうが必死だった。  彼女も傷付いているのに。他人の心配などしている場合ではないのに。 「もしも、伝えてないなら伝えておくべきよ。それで解消になっても、きっと次に進むとき後悔しないから」 「……ありがとう」  最後に寿史になんと言えばいいか悩んでいたけれど、素直な気持ちを伝えてから別れようと圭は決意した。  支援システムの規定で解消は避けられないだろうけれど、思いを伝えることは自由だ。

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