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【番外編】梅雨っていうのは、不意に熱を帯びる
「ねーねー、いいものってなぁに?」
手を繋いで帰っている途中、思い出したかのようにナオくんが聞いてきた。
「んー?なんだろうねー。」
「えー、秘密?」
「ひみつー。」
お菓子作り同好会だかなんだかで作ったマフィンとクッキー。普段同好会なんて誘われても断るけど、家にはお菓子大好きマンのナオくんがいるから今日だけ参加してきた。
「…フンフン、なんか甘い匂いがするね…。」
「お?」
僕の服の匂いを嗅ぐナオくんに、雨降ってたし余計に匂いなんてわかるわけないと思ったが、答えに近い事を言うので思わず感心する。
このまま当てられるかな?と期待を胸に、ナオくんの結論を待った。
「こ、これは…!」
「これは?」
「女の子の匂い!!」
だが、期待を裏切ったナオくんの結論に、僕は一瞬にして真顔になる。
「…なに、僕が浮気したとでも言いたいの。」
確かに七割くらいは女子だったけど。密着どころか肩すら当たってないし、なんなら隣で作業してたの緒方だったし。
「え?あっ、違う違う!」
一気に不機嫌になった僕を見て、ナオくんは慌てて否定した。
「本当に浮気したなんて思ってないよ?」
「ふーん。」
「シュンきゅーん…。」
「………。」
僕の態度に怒ったと思い込んで、焦りながらもションボリするナオくん。
本当はそこまで怒ってないけど、その答えは面白くないから意地悪した。
「あぅ…、あっ、シュンくんっ、見て!」
ツンとした態度の僕にどうするのかと思えば、手を離して二メートル程先まで走って止まる。すると、さっきまで取っていたフードを被り直し、両手を斜め四十五度に伸ばした。
「木!!」
「………。」
「あれ!?ウケない…だと…!?」
深緑色のレインコートに、茶色い長靴…ナオくんが言いたいことはよくわかったが、何故それが僕にウケると思ったのか、とても謎である。
「…ふっ、」
でも、そういうおバカなところが大好きなんだよなぁ。
「あ、よかった、笑った…!」
「…別に、木で笑ったわけじゃないからね。」
そう言いながら、ホッとするナオくんの方へ歩いて行き、喧嘩したいわけじゃないからこのまま許して仲良く家に帰ろうと思って、ナオくんに手を差し出した。
「………。」
「…?ナオくん?」
けど、ナオくんはその手を取ってくれず、僕の顔をジッと見つめる。
「…浮気したなんて少しも思ってないけど、香水みたいな甘い匂いするのは、本当だよ…?」
「え?」
「だから……。」
突然、バサッという音と共にナオくんが着てたレインコートを羽織らされ、目が点になった。僕が持っていた鞄や傘を奪い取り、テキパキとレインコートを着せ、ご丁寧に前のボタンまで止めてくれている。
「だから家に着くまでに、俺の匂いに染まっといてね。」
最後のボタンを止め終えたナオくんは、プイッとそっぽを向くと、僕の手を取って歩き出した。
「…ふ、ふふっ、」
「……なんだよ…。」
「いやあ…?僕って愛されてるなーって。」
「そうだよっ!愛してるよ!だから、違う匂いされるの、嫌なの!」
ギュッと強く繋がれた手を、僕も強く握り返す。ナオくんの熱烈な独占欲に、頬が緩まないわけがない。そして…。
「…ナオくん、帰ったら一緒にお風呂入ろうか。」
「ん…。」
湿気でベタつく体が、その独占欲で熱を持たないわけがない…♡
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