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月曜日の夜(4)
つい先日の話だ。
和臣に会うために外見を変えた綾人は、本当は街のどこかで初対面を装って和臣に近づくつもりだった。バーで知り合って意気投合、そんな青写真を描いていた。
そのために和臣の職場近くや地元駅近くの夜の街を歩いていて、何度目かの週末に偶然、悠人を見つけたのだ。
はじめは悠人だとわからなかった。昔の自分に似ている人がいるなと思って見ていたら、それは社会人になって身なりを整えた弟だった。
懐かしさと苦い思い出が、同時に胸にこみ上げた。話しかけてもいいのだろうか。そう思った時、綾人はひらめいた。
――テストしよう。
この姿で、身につけた軽い口調で、他人を装って悠人に話しかけてみよう。だいじょうぶ、もうだいぶ酔っているみたいだし、何年も会っていないんだ。きっとばれない。弟にばれなければ、和臣に会った時にもうまくやれるだろう。
かくして、計画はうまくいった。悠人は隣に座って話しかけてきた軽薄な身なりの男が兄だとは全く気づかず、奢られた酒を機嫌よくあおった。仕事の愚痴をこぼし、無能だという社員寮の寮監を嗤い、彼女の自慢をする弟は、綾人から見ても他人のような新鮮さがあった。
へえっ、そうなんだぁ~、やっべえ、マジ?それな!
綾人はリアクションに気をつけながら聞き役に徹した。ナギサを気に入ったらしい悠人はもう一軒行こうと誘い、二人は連れだって酔っ払いばかりの夜の街を歩いた。
そして。
駅前の大通りで、綾人は先を歩く弟に後ろから声をかけたのだ。
「あのさぁ、悠人ぉ。」
はじかれたように、悠人は振り向いた。ネオンに照らされた顔は、驚愕で目を見開いていた。
しまった、と綾人は思った。今のは「綾人」の声だった。その声で、背後から話しかけたのは失敗だった。
綾人が言葉を探していると、何かを言いかけて口を開いた弟の顔が、だんだん明るくなって、やけにまぶしくて――
突然刺すような頭痛を感じ、綾人はぎゅっと目を閉じた。和臣はその手を握ったまま、辛抱強く待ってくれた。彼の手は温かく、ちゃんと体温を感じられる。それなのに、どうしてこんなに不安なのだろう。
「オレたち…… どうなったの?」
知りたくないと思いながら、綾人は聞いた。
「オレと悠人、あのとき、あの後、…… どうなったの?」
和臣は目をそらした。その反応は、答えを知っていること、そして、それが綾人の望むものではないことを、如実に語っていた。
和臣は掌で綾人を制すと、上着のポケットから携帯電話を取り出した。何度か液晶に触れてニュースのページを開くと、それを黙って綾人に手渡す。
綾人は何度も、何度も同じ記事を目で追った。
手が震えて、文字が追えなくなる。それでも、その信じがたい記事の内容は、しっかりと彼の脳に刻まれた。
自分は、死んだ。3日前の事故で。
それが正しいなら、ここにいる自分は一体なんだろう…… ?
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