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ほの明るいグレーに融ける(2)
腕がしびれるような感覚で、綾人は目を覚ました。
まだ薄暗い部屋の中は、カーテンの外から差し込む春の暁にやわらかく照らされている。
隣では和臣が、規則正しい寝息を立てていた。
眠る和臣の横顔も、逞しい肩も、ほの明るいグレーで。その世界を、綾人は美しいと思った。
不安から逃れるために、子どものように手をつないで眠ったのに、いつの間にかほどけてしまっている。
綾人はしびれたような自分の右手を見て、息をのんだ。
肘から先が消えてなくなっている。
慌てて毛布をめくり、裸の身体を確認した。右足の膝から下も消えていた。写真に写った手足をはさみで切ったかのようにぷっつりと、右手右足が途中からなくなっていた。
綾人は恐怖で叫びだしそうだった。残った左手で、毛布をぎゅっとつかんだ。右手はもう感覚もない。
胃液が上がってくる!
そう思ったのに、自分の身体が妙に静かなことに気がついた。
不思議な感覚だ。内臓の重量を感じない。身体が軽い。夢の中で走るときのように軽く、息も上がらない。自分の鼓動を感じない。
ーー そうか。もう心臓がないのか。
そう思ったら、急に全身の力が抜けた気がした。
ーー そうかぁ……
不思議と、穏やかな気持ちだった。
あいつに監禁されている時は、いっそ殺せよと言った。施設にいたときには何度も自殺を図ったし、そもそも和臣に会いに来たのだって、死ぬ気だったからだ。
ーー いまさら死にたくないなんて、そんな都合のいい話、ないよな。
やっぱり自分は死んでいたんだ。和臣は信じないと言ってくれたけれど、そうでないと説明のつかないことがいくらでもあった。
この3日間こそが、奇跡だったんだ……
綾人は和臣の寝顔を見た。
よく寝ている。
和臣はいつも疲れていて、寝起きは不機嫌だ。今となってはそれも愛しい。
このまま黙って消えようか。
朝になったら消えていなくなっていた、そういうラストはよくある。
残された方は飛び起きて、いなくなった者の名前を呼びながら家中を探したりするんだ。そして慟哭。誰もが彼もしくは彼女に同情する。
でも。
消える方の人がその間際に何を思っていたかなんて、考えたことがなかったな。
「生きてたんだよ。」
昨夜そう告げたときの、和臣の顔を思い出す。複雑な、なんとも言えない表情だった。暗闇の中なのに、どうしてはっきり見えるのか不思議だったけれど。
生きてたの死んだのと、同じ苦しみを無駄に何度も与えてしまった。
ーー ごめんね……
「…… 和臣。」
耳元で、ささやくように声をかける。
和臣が泣いたり取り乱すところは見たくないけれど、せっかく与えられた奇跡なら、言うべきことを言って、ちゃんとお別れをしたかった。
「和臣、ごめんね。オレもう、行かなきゃいけないみたい…… 」
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