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Ⅰ 強制結婚!!⑤

この世界には二つの性の定義がある。 一つは外性器により判別される雌雄の性別で、第一性と呼ばれている。 もう一つは、生殖機能で判別されるα・β・Ωの性別で、第二性と呼ばれている。 雄のαとβには放精能力がある。 雄の Ωには放精能力がない代わりに、αまたはβの精子を受け取って子を宿す受精能力がある。 俺は、雄Ω 受精能力のある雄だ。 Ωには結婚し、子をつくる事が義務づけられている。 我が国の施策である。 この国はΩを孕ませる高い放精能力を持ち、遺伝子的にもβΩよりも優れた潜在能力を持つαが支配している。 この国だけじゃない。 世界を この世界の中枢をαが掌握している。 世界は、αによる優性思想により平和が保たれている。 誰も、αに逆らわないさ…… 人口の大多数を占めるβも、このいびつに歪んだ支配体制で利益と平和を享受できるのなら、逆らってまで真に正しい世界なんて求めはしない。 αはΩを最下層に置き、Ωを支配した。 Ωには受精能力がある。 放精能力のあるαの対になる性だ。 人口の減少は国を衰退させる。子を産み、人口を増やす事こそ、国を富ませる最大の施策である。 Ωは、受精可能な年齢になると婚姻通知書が届く。 αβΩの遺伝子は国立DMA研究所にデータ化されていて、最も相性のよい……即ち、受精しやすく且つ、より優秀な遺伝子を残せるαβと婚姻を結ぶのだ。 結婚から逃れる事はできない。 ……せめて。βが良かったな。 俺の夫はα…… それも、俺達Ωを支配する政治家だなんて…… 鏑木 悠司 父の基盤を次いだ二世議院である。外交で彼の右に出るものはいない。 新進気鋭。 自他ともに認める実力政治家だ。 父譲りの手腕は、内閣総理大臣に最も近い男と称されている。 俺は…… Ωを最下層にし、頂点に君臨するαの子を産まなければならない。 逆らえば、全ての人権を剥奪される。 それがαの作った法律だ。 「お前に帰る場所はない」 夕陽が囁いた。 緋色の瞳が火を宿して…… 「大学の寮は引き払った。手続きが完了したと先程秘書から連絡が入った」 そうか…… 通学途中、男達に囲まれて気を失って…… 気づいたら、ここで寝ていた。 俺を取り囲んだあの人達は、鏑木の秘書だったんだ。 「手荒な真似をしてすまなかったな」 うわべだけの謝罪だ。 まるで金属のように冷ややかな声が鼓動にのし掛かる。 心臓がドキドキしている。 愛のない結婚 始めなきゃいけないなんて。 今朝まで大学生だった俺が、突然、政治家の妻に。 瞳の中から夕陽が消えた。 不意にカーテンが引かれて、ぽむ 頭の上に落ちたのは、あたたかい…… 大きな手だ。 「お前を不安にさせてしまっているな」 なんで? 俺を見てくれない瞳なのに。 この手はこんなにも…… (優しいの?) 壊れ物にでも触れるかのように。髪を滑る手が撫でてくれる。 (どちらが、ほんとうのお前なんだ?) 俺を見ない瞳 俺を労る手 不意にベッドが軋んだ。 暗い天井を見上げている。 スプリングが跳ねた。 さっきまで俺を撫でていた手が肩を掴んでいる。上からきつく。 「それじゃあ、セックスしようか」 雄の声が耳朶を嬲った。 「営みは当然だろう。私達は夫婦なのだから」

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