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「はぁ、はあ――ああー疲れたー」
全力疾走で校舎から駆け出してきた優梨はとうとう音を上げた。一方の祥は全く息が上がっていない。
「いや、校舎から正門まで五十メートル位しかないだろ」
「フッ、帰宅部の体力の無さを舐めるなよ」
「そこ威張るところじゃないから」
祥は水泳部なので体力はある方だ。この程度の距離を走ったくらい何ともない。優梨の息が整うのを待っていると、何か言いたげな表情でこちらを見つめられて、肩に力がこもる。
「それで、昼間の事話してたの?」
「う、うん……」
やっぱり、と思った。事件のとき優梨は教室に居なかったはずだが、他の生徒から聞いたのだろう。優梨とは付き合いが長いため、何かあるとすぐに気付かれてしまう。だがそんな彼だからこそ、こんな時は何でも相談できる。
「なぁ、園山のヘッドホンを外させるためにはどうしたら良いと思う?」
「うーん…………外させる方法じゃなくて、外さない理由を考えてみたらどうかな」
「外さない理由?」
「そう。頭ごなしに外せって言っても聞いてもらえないだろ。だから、外さない理由を解決できれば良いんじゃないか」
「そっか、園山はただヘッドホンを外したくないんじゃなくて、何か外せない理由があるってことか!」
その発想は祥だけでは思いつかなかっただろう。問題解決に僅かに近づいた気がした。
だが、ここで一つの疑問が生じてしまう。
「だとしたら、一体どんな理由があるんだろうな」
「……耳の形にコンプレックスがあるとか」
「いや、俺が殴ろうとした時ヘッドホン外したけど、耳の形が変とかは無かったぞ」
「じゃあ、すごく音楽が好きとか?」
「えー、そんなんで授業中も外さないとかあるのかな」
「そういう祥は何か心当たりあるのかよ」
「いや、何も……」
そう言われると何も思いつかない。今まで園山の事情を考えてこなかったせいだろう。
「とにかく、園山がヘッドホンを外さない理由を解決すればいいんだよな――あー、でも……」
「どうした?」
「俺にそんなこと話してくれるかな」
今まで園山にしてきたことは決して善い行いとは言えない。乱暴な口を利いてきたし、今日に至っては暴力を振るおうとしてしまった。四六時中つけているヘッドホンはきっと園山にとって重要な意味のあるものだ。
それを外さない理由を聞き出すには、祥はあまりにも信頼を失い過ぎているのではないのだろうか。
「だからさ、いきなり話してもらおうとするんじゃなくて、だんだん距離を縮めていけば良いんじゃないの」
「つまり?」
「あいつと友達になってみたらどうってこと」
「――――とも、だち……?」
その響きが、不思議と胸に刺さった。祥は友達が多い方だが、園山は自分とは違うタイプだと思ってそういった関係になろうとしたことは無かった。
「上手くいくかなぁ」
「大丈夫。祥なら出来るって」
優梨はぽんっと祥の軽く肩を叩き、双眸を見据えた。
「お前も喧嘩っ早くなければ良い奴なんだから、頑張れよ」
「ひ、一言多いんだよ!」
こんなやり取りも慣れたものだ。今のは、彼なりの気遣 いだろう。
優梨には、自信を無くした時はいつも励ましてもらっている。
「でもありがとう。やってみるよ」
祥は駆け出した。園山のヘッドホン問題が少しでも解決に近づくのかと思うと、嬉しくてその足はどんどん速まっていく。
(よし、早速明日から園山と友達になるぞ!)
優梨に手を振りながら家までの道を急いだ。
帰ったら、すぐに作戦を立てなければ。
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