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翌朝、祥はいつも通り学校へ向かった。すると園山はすでにそこにおり、やはりいつも通り机に顔を埋めていた。
(よっしゃ、やるぞ)
しっかりと意気込んで教室を闊歩する。
彼の席の前に立ち、大きく息を吸い込んだ。
「園山ァ!」
すると、彼はびくっと肩を振るわせた。少し声が大きすぎたかもしれない。一瞬教室の中が静まってしまったが、声の大きさはそのままで、昨夜練習した言葉をかける。
ヘッドホンの奥まで届くように。
「昨日はごめんっ! 本当に悪かったと思ってる」
「……別に、もう気にしてないからいいよ」
「えっ、いいの!?」
祥は下げていた頭を勢いよく元に戻した。
こんなにあっさりと許してもらえるとは思っていなかったので、逆に面食らってしまう。この調子なら、もしかしたらいけるかもしれない。
「そ、それでさ……いきなりで悪いんだけど、お、俺と…………友達になってくれないか?」
おずおずと切り出すと、園山は今度は俯いてしまった。立っているこちらからはその様子が分からない。一体何を考えているのだろうか。
だが次の瞬間、彼の口から発せられた言葉に耳を疑った。
「……俺で、良いの?」
「何言ってんだ! 俺がお前に友達になってくれって言ってんだから、選択権はそっちにあるの! 何でそんな事言うんだよ」
言い切った後ではっとして口をつぐむ。少々口が悪いところも直さなければ。今度こそ傷つけてしまったかもしれない。そう思い園山の顔色を伺うが、当の本人は目を丸くして祥を凝視している。
「えっ、何、どしたの!?」
「いや、何でもない。その……よ、よろしく…お願いします」
(~~ッ、やった!)
まずは第一段階、クリアだ。
「ありがとう! じゃあ、これからよろしくな、園山!」
「ぅ、うん……」
祥が手を差し出すと、園山は握手に応えてくれる。ぎゅっと手を握り、友達になれた嬉しさに浸っていると、教室に入ってくる優梨の姿が見えた。
園山に一旦席を外すことを伝え、彼の元へと急ぐ。
「優梨!」
「祥、おはよ」
「ありがとな優梨、お前のお陰で園山と友達になれたよ」
まずは礼を言わなければ。優梨のアドバイスが無かったら、今頃はヘッドホンを外せと怒鳴っていたところだ。これからもっと仲良くなって、園山がヘッドホンを外さない理由を突き止めたい。
しかし優梨は、祥が期待していたのとは違う反応を示したのだ。
「嘘、本当に友達になれたの?」
「何それ。お前があいつと友達になったらって言ったんじゃん」
「いや、そうなんだけど……まぁ、良かったな」
どこか歯切れが悪い。何か問題でもあるのだろうか。
首を傾げつつも、祥の方はあまり気にせず話を続けた。優梨が何を考えているのか分からないことは良くあるのだ。
「とにかくありがとな! お礼に今度、ジュースでも奢ってやるよ」
そう言って祥は自席に戻った。席に着いた途端、始業を告げるチャイムが鳴る。
ふと園山と目が合ったが、いつもの様に睨みつけるのではなく、今日からは笑ってその視線に応えるのだ。
祥は早速、園山と友達になって一回目の笑顔を見せた。
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