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   ***  翌朝、祥はいつも通り学校へ向かった。すると園山はすでにそこにおり、やはりいつも通り机に顔を埋めていた。 (よっしゃ、やるぞ)  しっかりと意気込んで教室を闊歩する。  彼の席の前に立ち、大きく息を吸い込んだ。 「園山ァ!」  すると、彼はびくっと肩を振るわせた。少し声が大きすぎたかもしれない。一瞬教室の中が静まってしまったが、声の大きさはそのままで、昨夜練習した言葉をかける。    ヘッドホンの奥まで届くように。 「昨日はごめんっ! 本当に悪かったと思ってる」 「……別に、もう気にしてないからいいよ」 「えっ、いいの!?」  祥は下げていた頭を勢いよく元に戻した。  こんなにあっさりと許してもらえるとは思っていなかったので、逆に面食らってしまう。この調子なら、もしかしたらいけるかもしれない。 「そ、それでさ……いきなりで悪いんだけど、お、俺と…………友達になってくれないか?」  おずおずと切り出すと、園山は今度は俯いてしまった。立っているこちらからはその様子が分からない。一体何を考えているのだろうか。 だが次の瞬間、彼の口から発せられた言葉に耳を疑った。 「……俺で、良いの?」 「何言ってんだ! 俺がお前に友達になってくれって言ってんだから、選択権はそっちにあるの! 何でそんな事言うんだよ」  言い切った後ではっとして口をつぐむ。少々口が悪いところも直さなければ。今度こそ傷つけてしまったかもしれない。そう思い園山の顔色を伺うが、当の本人は目を丸くして祥を凝視している。 「えっ、何、どしたの!?」 「いや、何でもない。その……よ、よろしく…お願いします」 (~~ッ、やった!)  まずは第一段階、クリアだ。 「ありがとう! じゃあ、これからよろしくな、園山!」 「ぅ、うん……」  祥が手を差し出すと、園山は握手に応えてくれる。ぎゅっと手を握り、友達になれた嬉しさに浸っていると、教室に入ってくる優梨の姿が見えた。  園山に一旦席を外すことを伝え、彼の元へと急ぐ。 「優梨!」 「祥、おはよ」 「ありがとな優梨、お前のお陰で園山と友達になれたよ」  まずは礼を言わなければ。優梨のアドバイスが無かったら、今頃はヘッドホンを外せと怒鳴っていたところだ。これからもっと仲良くなって、園山がヘッドホンを外さない理由を突き止めたい。  しかし優梨は、祥が期待していたのとは違う反応を示したのだ。 「嘘、本当に友達になれたの?」 「何それ。お前があいつと友達になったらって言ったんじゃん」 「いや、そうなんだけど……まぁ、良かったな」  どこか歯切れが悪い。何か問題でもあるのだろうか。  首を傾げつつも、祥の方はあまり気にせず話を続けた。優梨が何を考えているのか分からないことは良くあるのだ。 「とにかくありがとな! お礼に今度、ジュースでも奢ってやるよ」  そう言って祥は自席に戻った。席に着いた途端、始業を告げるチャイムが鳴る。  ふと園山と目が合ったが、いつもの様に睨みつけるのではなく、今日からは笑ってその視線に応えるのだ。  祥は早速、園山と友達になって一回目の笑顔を見せた。

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