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      ***  全ての授業が終わり、終礼が始まる頃。祥はある計画を遂行しようとしていた。 (園山と一緒に帰って、寄り道でもして、そしたらもっと仲良くなれるかもしれない)  早く学校が終わらないかとうずうずしていたら、紫藤先生が入ってきてクラスの皆に着席を促す。そして明日の連絡事項を伝えるが、祥の耳にはほとんど入っていない。 (な、何でこんなにキンチョーしてるんだ俺は!)  普段とは違う声のかけ方をするせいか、さっきから心臓の音がすぐ近くで鳴っている。そのせいで、周囲の雑音に耳を傾けている余裕が無かった。  次に気が付いた時には、さようならというたくさんの声が聞こえ、既に終礼が終わっていた。  今がチャンスとばかりに、覚悟を決めて隣に座る彼に声をかける。 「そ、園山さぁ、この後予定ある?」  園山は荷物をまとめていた手を一旦止めて祥を見つめた。 「いや、何もないけど……」 「じゃあさ、俺と一緒に帰らない?」  園山はこれまた目を丸くして、そのまま完全に動きを静止させてしまった。やはり祥から一緒に帰ろうと誘われるのは、驚きだったらしい。  しばらくの沈黙の後、園山が口を開ける。 「うん。いいよ……」 「やった! じゃあ早く行こうぜ」  祥は彼の手を引いて教室を飛び出した。有無を言わせないその行動に、園山は慌てて鞄を肩に掛け、前のめりになりながら祥の走る速さに食らいつく。 「ちょ、ちょっと待って。どこ行くの?」  昇降口を出たあたりで園山が足を止め、繋いでいた振りほどいた。 「え? せっかく友達になったんだから、どっか寄り道して行こうかと思ってたんだけど……もしかして、他に行きたい所ある?」 「いや、そっちの好きにしていいよ」  好きにしていいということは、祥の行きたい所に行っていいという事だろうか。それならもう決まっている。 「じゃあさ、ゲーセン行こうぜ」   駅の近くに祥がよく行くゲームセンターがある。そこなら一緒に楽しめるだろう。   二人の仲を深めるには打って付けの場所だと思ったのだが、園山はなぜか首を傾げていた。 「ゲーセン……?」 「もしかして、ゲーセン知らない!?」 「いや、もちろん知ってるけど、行ったこと無い……」 「じゃあ丁度いいや、園山のゲーセンデビューってことで!」  祥は園山の背中を押して駅の方へと向かった。  目的地までは五分程しかかからない。だがその間にも会話が途切れることの無いように、話のネタは考えてある。 「園山って、好きな科目ある?」 「……数学、かな」 「マジで!? 俺も数学好きなんだよ。じゃあ、嫌いな科目は?」 「……英語」 「おぉー、それも俺と同じだ。英語って難しいよな」  他愛の無い話をしていたら、ゲームセンターにはあっという間にたどり着く。園山はというと、その賑やかな雰囲気に尻込みしているように見えた。 (あ、もしかしてゲーセンは失敗だったかな)  だが本人は何も言わないので、とりあえずそれに気付かない振りをして店の奥へと向かう。 「園山は何かやりたいのある?」 「俺は特にないから、そっちが決めて良いよ」 「そうか? じゃあ……あれ!」  祥の視線の先にあるのは、いくつかのぬいぐるみが入ったクレーンゲーム。 「これがいいの?」 「うん。ほらこれ、可愛くない?」    ガラスの中にある、全長五十センチほどのウサギのぬいぐるみを指して言った。取るのはかなり難しそうだ。 「……こういうのが好きなんだ」 (ヤバ、引かれたかな……)  祥には可愛いものや甘いスイーツが好きな所がある。よく女子みたいだと言われるが、祥自身はあまり気にしたことが無かった。  普段の友達なら『お前こんなのが好きなのかよー』と冗談気味に言われ、こちらも笑って応えることができる。だが園山の様に静かに言われると、本当に引かれているのではないかと思えてしまう。 「まぁ、とりあえずやってみるよ」  二百円を投入するとゲームがスタートした。祥は慣れた手つきで機械を操作する。  一回目で上手くぬいぐるみの胴にアームが引っかかった。しかしサイズが大きいため、アームで支えきれずにするりとその間を抜けてしまう。 「くっそー、もう一回!」  再び財布から二百円を取り出してゲームに投ずる。さっきより力がこもるが、そんな気合いもむなしく、またしてもぬいぐるみが持ち上がることは無かった。    だが今度は、座る体勢だったぬいぐるみが横に倒れ、先ほどより落し口に近くなった。そこに頭を向けているため、足を持ち上げればすぐに取れそうだ。  次で取れる――そう思った時、ふとガラスに映る園山と目が合った。初めてのものに興奮する訳でもなく、ただ祥の顔をじっと見つめている。 (――あ、園山も一緒に楽しまないとダメじゃん) 「園山、ちょっと一回やってみろよ」 「あっ」  小さな呟きが聞こえてきたのと、何かが落ちる音がしたのはほぼ同時だった。  園山の方に向き直ると、その腕にはウサギのぬいぐるみが抱えられていた。 「おおー! 一発で取れるなんてすごいな!」 「い、井瀬塚が取りやすくしてくれたから……はい、これ」  そう言ってぬいぐるみを手渡される。祥はそれを受け取り抱きしめた。 「ありがとう! これ、絶対大事にするな!」  祥は満面の笑みで園山を見上げる。  するとそこには―――― 「あ、今笑った! 初めてじゃね!?」  園山の照れくさそうな笑顔があった。 「俺だって笑うよ。大げさだな」 「お前もっと笑ったほうがいいって。かっこいいし」  普段は無表情のため近づき難い雰囲気を醸し出しているが、もとのパーツは整っているのだ。笑う時にふわっと踊る黒髪も、優しさをたたえた瞳も、園山の笑顔に良く似合っている。 「ほ、褒めたって何も出ないから……。次はどこに行くの?」 「えっとー、腹減ってきたから何か食いに行くか」  祥の提案で、二人はゲームセンターを出た。ぬいぐるみはそこで袋に入れてもらったので持ち運びが楽になる。 「え、俺やったことないし」 「だからだよ。ゲーセン来て何もしないなんて勿体ないだろ」  園山をゲーム機の前に来るよう促し、ゲームをスタートさせる。 「ほんとにいいの? 失敗したらその二百円無駄になる……」 「何言ってんだ。こんくらいのぬいぐるみフツーに買ったら三千円はするぜ。もう少しで取れそうなんだから、どっちにしろ安上がりだ」  弱気になっている園山を少しでも元気付けなければ。そう思って祥は思ったことをそのまま口にした。 「……井瀬塚って、優しいね」 「そ、そうか……?」 (何で俺褒められたんだ? っていうか――――) 「今、初めて俺の名前呼んだな!」 (なんか、スゲー嬉しい!)  今までの仲が良くなかったせいか、名前を呼ばれてもそれが園山というだけで特別な感じがする。 「じゃあ、始めるよ」 「お、おう。足のところを持ち上げると取れると思う」 「分かった」  園山は何事も無かったかのように振る舞うが、その頬は少し赤くなっていた。それを見てこちらまで照れてしまい、思わず顔を逸らす。  機械の操作音だけが、二人の耳に届いていた。 「あっ」  小さな呟きが聞こえてきたのと、何かが落ちる音がしたのはほぼ同時だった。  園山の方に向き直ると、その腕にはウサギのぬいぐるみが抱えられていた。 「おおー! 一発で取れるなんてすごいな!」 「い、井瀬塚が取りやすくしてくれたから……はい、これ」  そう言ってぬいぐるみを手渡される。祥はそれを受け取り抱きしめた。 「ありがとう! これ、絶対大事にするな!」  祥は満面の笑みで園山を見上げる。  するとそこには―――― 「あ、今笑った! 初めてじゃね!?」  園山の照れくさそうな笑顔があった。 「俺だって笑うよ。大げさだな」 「お前もっと笑ったほうがいいって。かっこいいし」  普段は無表情のため近づき難い雰囲気を醸し出しているが、もとのパーツは整っているのだ。笑う時にふわっと踊る黒髪も、優しさをたたえた瞳も、園山の笑顔に良く似合っている。 「ほ、褒めたって何も出ないから……。次はどこに行くの?」 「えっとー、腹減ってきたから何か食いに行くか」

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