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 祥の提案で、二人はゲームセンターを出た。ぬいぐるみはそこで袋に入れてもらったので持ち運びが楽になる。  駅前には中央に噴水が設置された公園があって、地元の人の憩いの場になっている。祥はそこの入り口にクレープを売るワゴン車を見つけた。 「あ、あそこのクレープ一回食べてみたかったんだよな」 「え、あそこ……?」  園山の足が、ぴたりと止まる。 「どうした? もしかして甘いの嫌い?」 「いや、嫌いじゃないけど、あれ……」  気乗りしない、といった様子で園山が視線を送る先からは、黄色い声が上がっている。  ピンク色に塗装されたワゴン車の前に、女子高生が数人で列を成していたからだ。あの中に混ざるのは気が引けるのだろう。 「あそこに並ぶの?」 「うん」 「恥ずかしくない?」 「恥ずかしくなんかねーよ。好きなモン買うのに、何で恥ずかしがらなきゃいけないんだ――っ」 (あ、またやってしまったかもしれない……)    祥は急いで自制するが、放ってしまった言葉はもう帰って来ない。   口が悪いのはどうしようもないが、せめてもっと優しく言うことはできないだろうか。  せっかく良い感じになってきたのに、こんなことを言い続けていたら嫌われてしまうかもしれない。  ひやひやしながら謝罪の言葉を考えていると、予想もしなかった結果が祥の元に訪れる。 「凄いな、井瀬塚は」 「そう、かな……?」 (なんか、また褒められた?)  一体どこが凄いというのか、見当も付かない。だが、どうやら嫌われた訳ではないらしく、祥は胸をなで下ろした。 「じゃあ、一緒に並ぶか?」 「うん」  待ち時間は思ったより長くなかった。祥はアイスクリームがトッピングされた苺のクレープ、園山もそれと同じものを頼んだ。 「いっただきまーすっ」  祥は早速クレープを頬張り、その柔らかな甘さに顔を綻ばせる。 「井瀬塚、本当においしそうに食べるね」 「だってうまいんだもん。ほら、園山も早く食えよ」 「うんっ――――あ、おいしい」 「だろ? ここのクレープ、スゲー人気だからいつか食べたいって思ってたんだよなぁ」  祥は夢中でクレープを食べ進める。園山も満足そうな表情だ。  どうやら、今日の作戦は見事に成功したらしい。かなり園山との距離が近づいた気がする。  だが、食べてるのに没頭していたせいで、二人の間に会話が無くなってしう。次は何を話そうかと思案していると、園山がポツリと呟いた。 「……今日は、ありがと」  それは祥の耳にようやく届くほどの小さな声だったが、心には十分すぎる程大きく響く。 「こっちこそありがとう! お前あまり喋らないから楽しめてるか心配だったんだけど」 「すごい楽しかったよ……。その、喋れないのは人見知りだからで……」 「あ、そうだったんだ。じゃあ、これからは俺に人見知りするのは無しな!」 「え……?」 「だって、俺とお前はもう友達だろ?」  友達になったのだから、もう人見知りする必要はない。そう思って素直な気持ちを口にした。とにかく、園山が楽しんでくれたことが分かり一安心だ。 「井瀬塚は良い奴だね。今まで合わないかもって思ってたんだけど、やっぱり見た目だけじゃ分からないこともあるよね」 (見た目、か……)  やはり人は第一印象が大切なのかと、今回身を以って思い知った。始めが上手くいかなかったのはそのせいもあるのだろう。園山にきちんと説明しなくては。 「あ、あの、俺が見た目のせいでお前に誤解を与えてたっていうなら謝る。けど、ちゃんと説明させてくれ」 「……うん」 「俺さ、元々髪の毛の色素が薄いんだ。それなのに水泳部だから、余計色が抜けてこんな事になっちゃって」  そう言いながら、自身の髪の毛を指でいじった。  学校に地毛登録してあるため普段は何も言われないのだが、(うわ)ついてる様に見えてしまうのは仕方が無い。 「ちなみに、俺いつも寝癖が酷くてさ、直すの面倒くさいから前髪は寝癖つかないように伸ばしてるんだ。ヘアピンはそれが邪魔だからしてるだけで……俺、園山が思ってるほどチャラくないぜ」 「そうだったんだ……ごめん。俺、井瀬塚のことすごい誤解してたかも」  園山は本当に済まなさそうに誤ってくれるが、元々はこちらに非があるので逆に申し訳なくなってしまう。 「いや仕方ないって。お前転校してきたばっかだし。俺、昨日あんなことしたし……」 「あれは本当に気にしてないからいいよ」 「うん。ありがと」  園山が優しい奴でよかった。そう思わずにはいられない。その嬉しさと共にクレープを口いっぱいに詰め込む。  すると、不意に園山の手がこちらに伸びてくるのが目に入った。 「な、なに――」  そちらの方を向かされたかと思うと、祥の唇の端を園山の指がそっと拭う。 「クリーム、付いてたよ」 「ああああありがと! ほら、ティッシュ使えよ!」  祥は慌てて鞄からテッィッシュを引っ張り出した。その隙に目を逸らすが、園山の瞳に見つめられた瞬間顔が熱くなって、心拍数が一気に上がるのが自分でも分かった。 (な、何こんなことで動揺してんだ俺は)  これはクリームを取ってくれただけで、園山にとっては特別な意味など無いのだろう。だが落ち着こうとすればするほど心臓の音は大きくなる一方だ。  それを悟られまいと、無理やり話の話題を変えることにした。 「そういえば園山、お前昼休みどこにいた? 教室にいなかったよな」 「ああ……それは、屋上に行ってて」 「屋上? あそこ鍵開いてんのか」 「うん。お昼はいつもそこで食べてる」 「へー、俺も一緒に食べていい?」  今日は一緒に食べられなかったため、明日は昼食を共にしたい。園山と一緒にいる時間を増やしたかった。 「じゃあ、明日は一緒に食べようか」 「おう!」  一つの約束を交わした。二人にとって初めての約束だ。  だんだんと距離が近づいていく。祥はもはや当初の目的を忘れ、ただ園山と仲良くなりたいと願うばかりだった。 「そろそろ帰ろうか」 「そうだな、今日は宿題も多いし。園山の家ってどっち?」 「ここから少し離れてるんだ」  そう言って園山は駅の方を指す。 「電車で来てんのか?」 「いや、バスで通ってるんだ」  どうやら園山が示したのは駅ではなく、駅前のバス停だったようだ。 「ふーん……結構遠いの?」 「家はy町だから、一時間くらいかな」 「すごいな。俺は家から近いってだけでこの学校選んだから、十五分くらいで着くけど」  y町といえば、祥たちの高校があるx町の隣町だ。だが転校してもそんなに遠くから通っているということは、この学校でないといけない理由があるのだろうか。  それを聞こうとした祥は、開きかけた口を再び閉じた。 (これって、聞いてもいいのかな……)  もし話したくない理由があったらどうしよう。それはヘッドホンのことも同じだ。  変に聞き出してしまうより、園山から話してくれるのを待ったほうが良いのではないだろうか。 「井瀬塚、どうかした?」 「何でもない。それじゃ、また明日な!」 「うん、また明日」  こうして二人は別れ、それぞれの帰途についたのだった。

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