9 / 50
3-2
***
昼休みになり、祥は約束どおり園山と屋上に向かっていた。
園山がそこのドアに手をかけると、ドアノブは引っかかることなく回る。
「うわ、ほんとに鍵かかってないんだ」
「うん。皆ここは開かないって思ってるみたいで、逆に誰も来ないから静かなんだ」
そう言って園山はドアを大きく開ける。
次の瞬間、五月の蒼くて清々しい風が二人を包み込んだ。
「――ッ、園山お前、いつもこんな所で飯食ってたのかよ。すっごい良いとこじゃん!」
二人は今、この学校で誰よりも一番高いところに立っている。
あまりに静かなこの場所で、まるで二人だけの世界に入ってしまったかのような気がした。
祥は屋上の真ん中まで走り、辺りをぐるりと見回す。
そこには、蒼い空が果てしなく続いていた。
胸一杯に爽やかな空気を吸い込んでから、フェンスの隅に腰を下ろした園山の元へ向かう。
「園山、ここ教えてくれてありがとな!」
「うん。本当は誰にも教えたくなかったんだけど……井瀬塚なら、良いかなって思って」
「マジで!? じゃあ俺、屋上のこと誰にも言わない。俺、口は堅いから」
「ありがとう。ここは二人だけの秘密だから」
約束が、秘密になった。
二人だけの秘密だ。それが嬉しくて自然と笑みが零れてしまう。
「どうしたの井瀬塚? 何か、嬉しそうだね」
「何でもねーよ。早く飯食おうぜ」
そう言った祥の声は弾んでいる。
園山は、ようやく二回目の笑顔を見せてくれた。
ともだちにシェアしよう!