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 窓から差し込む朝日の眩しさに顔をしかめ、祥は目を覚ました。 (そうだ、俺寝ちゃったんだっけ)  園山の腕の中でそのまま眠りに就いてしまったことを思い出す。  それにしても昨夜の出来事は一体何だったのか。意識が途切れる間際、園山は心の声が聞こえるだの、祥のことが好きだのと言っていた気がするのだが……。 (あ、そうだ。夢だ夢)  あれはきっと夢だったのだ。夢以外ありえない。 (よし、着替えるか)  ここは園山の部屋らしいが、その持ち主はもう起きているようだ。勉強机の上にはきれいに畳まれた祥の制服と下着が置いてあった。  それを身に着けようとしてゆっくりと体を起こすと―― 「!? いったぁ~!!」  腰に鋭い痛みが走った。   確かめるまでもないと思うが、一応頬を抓ってみる。 「痛いッ……夢じゃない!」 (だよな、やっぱり夢じゃないよな。っていうか、今裸で寝てた時点でもう気付いてたよッ!)  そういえば、あんなに汚れていた身体がきれいになっている。園山が後処理を全てやってくれたのかと思うと、恥ずかしくも申し訳なくなってくる。  祥は深い溜息をついてからベッドから起き上がった。そして腰に響かないように、そっと衣服を身に着ける。最後にヘアピンをつけて、ようやく祥の身支度は完成する。  制服に着替え終わると、部屋を出て壁伝いに慎重に階段を下りていった。リビングから台所を覗くと、そこに居たのは料理を作る園山の姿。いつも通りヘッドホンをしている。 「あ、おはよう井瀬塚。今起こしにいこうと思ってたんだ」 「……おはよ」 「もうすぐ朝ごはんできるから、座ってて」  腰が痛くて手伝うとも言い出せなかったので、言われた通り座っていることにした。  やがてトーストや目玉焼きを乗せた皿が運ばれてきて、園山は祥と向かい合って椅子に座る。 「いただきます」 「……いただきます」  園山と一緒にとる食事はいつも楽しかったのに、今日はなんだか気分が乗らない。というのも、この状況が祥の理解できる範囲を超えているからだ。  キスをされ、抱かれ、告白され……一体どこまでが園山の本当なのだろうか。  向こうも何か話をする気配はなく、結局無言のまま朝食を食べ終わってしまった 「はい、これ」 「何?」  後片付けを終えた後、祥の前に水が入ったコップと錠剤が差し出される。 「酔い止めだよ。学校に着くまで辛いでしょ」 「……ありがと」  素直にそれを受け取り、薬を口に放り込む。水を一気に飲み干した後、祥の方から切り出した。 「お前、今日は学校来るよな?」 「……ごめん。でも、テストが始まったら行くよ」  本人はまだ部屋着のままだ。本当に来るつもりはないらしい。 「何でだよ! テスト前だぞ。今が一番大事な時じゃねーか」  園山が授業をサボろうとしている事に腹が立った。それだけではない。どこまでも祥の思ったように事が運ばず、だんだん冷静さを失っていたせいもあり、余計に苛々してしまう。  その怒りをぶつけると、予想外の答えを返された。 「――――今は、井瀬塚と距離を置きたいんだ」 「は、はぁ? 何言って……」  昨日あんなことをしておいて。そう言おうとした祥はとっさに口を噤つぐんだ。園山が、今まで見たことも無い、思いつめた表情をしていたからだ。 (なんで、お前がそんな顔するんだよ)  さらに追い打ちをかけるように、園山の台詞が突き刺さる。 「とにかく、井瀬塚とはもう…………友達をやめたい」  その瞬間、目の前が真っ暗になった。 (……え、今、こいつなんて言った?)  呆然としていると、祥は自分の鞄を持たされていた。 「早く出たほうがいい。遅刻するよ」 「え、でも――」  ショックのあまり動揺してしまう。  だが園山は、そんな祥の腕を掴んで玄関へと連れて行く。 「それじゃ、気を付けて」 「ちょ、おい!」  園山はそれだけ言って祥を追い出し、無情にも鍵をかけてしまった。 「そのやま……?」  混乱する頭を整理することもできず、仕方なくバス停までの道のりをとぼとぼ歩いた。  一歩踏み出すたびに腰に響く。 「()った……」  腰だけではない。心も痛かった。  一体いつから、何を間違えてしまったのだろう。もう園山ともとの関係には戻れないのかと思うと、無性に涙が溢れてくる。

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