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6-1
窓から差し込む朝日の眩しさに顔をしかめ、祥は目を覚ました。
(そうだ、俺寝ちゃったんだっけ)
園山の腕の中でそのまま眠りに就いてしまったことを思い出す。
それにしても昨夜の出来事は一体何だったのか。意識が途切れる間際、園山は心の声が聞こえるだの、祥のことが好きだのと言っていた気がするのだが……。
(あ、そうだ。夢だ夢)
あれはきっと夢だったのだ。夢以外ありえない。
(よし、着替えるか)
ここは園山の部屋らしいが、その持ち主はもう起きているようだ。勉強机の上にはきれいに畳まれた祥の制服と下着が置いてあった。
それを身に着けようとしてゆっくりと体を起こすと――
「!? いったぁ~!!」
腰に鋭い痛みが走った。
確かめるまでもないと思うが、一応頬を抓ってみる。
「痛いッ……夢じゃない!」
(だよな、やっぱり夢じゃないよな。っていうか、今裸で寝てた時点でもう気付いてたよッ!)
そういえば、あんなに汚れていた身体がきれいになっている。園山が後処理を全てやってくれたのかと思うと、恥ずかしくも申し訳なくなってくる。
祥は深い溜息をついてからベッドから起き上がった。そして腰に響かないように、そっと衣服を身に着ける。最後にヘアピンをつけて、ようやく祥の身支度は完成する。
制服に着替え終わると、部屋を出て壁伝いに慎重に階段を下りていった。リビングから台所を覗くと、そこに居たのは料理を作る園山の姿。いつも通りヘッドホンをしている。
「あ、おはよう井瀬塚。今起こしにいこうと思ってたんだ」
「……おはよ」
「もうすぐ朝ごはんできるから、座ってて」
腰が痛くて手伝うとも言い出せなかったので、言われた通り座っていることにした。
やがてトーストや目玉焼きを乗せた皿が運ばれてきて、園山は祥と向かい合って椅子に座る。
「いただきます」
「……いただきます」
園山と一緒にとる食事はいつも楽しかったのに、今日はなんだか気分が乗らない。というのも、この状況が祥の理解できる範囲を超えているからだ。
キスをされ、抱かれ、告白され……一体どこまでが園山の本当なのだろうか。
向こうも何か話をする気配はなく、結局無言のまま朝食を食べ終わってしまった
「はい、これ」
「何?」
後片付けを終えた後、祥の前に水が入ったコップと錠剤が差し出される。
「酔い止めだよ。学校に着くまで辛いでしょ」
「……ありがと」
素直にそれを受け取り、薬を口に放り込む。水を一気に飲み干した後、祥の方から切り出した。
「お前、今日は学校来るよな?」
「……ごめん。でも、テストが始まったら行くよ」
本人はまだ部屋着のままだ。本当に来るつもりはないらしい。
「何でだよ! テスト前だぞ。今が一番大事な時じゃねーか」
園山が授業をサボろうとしている事に腹が立った。それだけではない。どこまでも祥の思ったように事が運ばず、だんだん冷静さを失っていたせいもあり、余計に苛々してしまう。
その怒りをぶつけると、予想外の答えを返された。
「――――今は、井瀬塚と距離を置きたいんだ」
「は、はぁ? 何言って……」
昨日あんなことをしておいて。そう言おうとした祥はとっさに口を噤つぐんだ。園山が、今まで見たことも無い、思いつめた表情をしていたからだ。
(なんで、お前がそんな顔するんだよ)
さらに追い打ちをかけるように、園山の台詞が突き刺さる。
「とにかく、井瀬塚とはもう…………友達をやめたい」
その瞬間、目の前が真っ暗になった。
(……え、今、こいつなんて言った?)
呆然としていると、祥は自分の鞄を持たされていた。
「早く出たほうがいい。遅刻するよ」
「え、でも――」
ショックのあまり動揺してしまう。
だが園山は、そんな祥の腕を掴んで玄関へと連れて行く。
「それじゃ、気を付けて」
「ちょ、おい!」
園山はそれだけ言って祥を追い出し、無情にも鍵をかけてしまった。
「そのやま……?」
混乱する頭を整理することもできず、仕方なくバス停までの道のりをとぼとぼ歩いた。
一歩踏み出すたびに腰に響く。
「痛 った……」
腰だけではない。心も痛かった。
一体いつから、何を間違えてしまったのだろう。もう園山ともとの関係には戻れないのかと思うと、無性に涙が溢れてくる。
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