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6-2
バスの中、祥は目元を腫らした顔を誰にも見せまいと、ひたすら膝に乗せた鞄に顔をうずめていた。
駅前に着いたときには涙も収まっていたが、今度は乗り物酔いの気持ち悪さが祥を襲う。酔い止めを飲んでいたお陰で昨日ほど酷くはないが、ずっと下を向いていたせいでかなり酔ってしまった。
(クソ、朝から最悪……)
よろよろと歩いていると、前方から声をかけられる。
「祥? どしたの」
「あ……優梨」
学校の正門の前で、祥と同じく駅とは反対方向に家がある優梨と鉢合わせてしまったのだ。
「なんで駅のほうから来てんの? ってか、具合悪そうだけど」
「うん……バスに酔った」
「バス? なんでそんなの乗って来るんだよ」
「ちょっと、色々あって……」
ここははぐらかしておくのが一番だろう。あまり突っ込んだ話をされたくなかった。
「どうする? 保健室行くか?」
「ん…そうする」
結局優梨に保健室まで連れられて、そこのベッドで休ませて貰うことになった。
だが昨夜もよく眠ったため、眠気が祥の元を訪れることはなく。
しばらく横になって落ち着いたところで、園山の家を出てから止まっていた思考を再び廻らせた。
(あいつ、何であんなこと言ったんだろ)
友達をやめたい。確かにそう言っていた。そう言わせてしまうほど、嫌われてしまったのだろうか。やはり日曜日に勝手にヘッドホンを外してしまった事に対して怒っているのだろうか。だが、昨夜園山は自らヘッドホンを外した。
(そういやあいつ、心の声が聞こえて、そのせいであれ付けてるって言ってたよな)
では心の声が聞こえないように、普段はヘッドホンをしているのだろうか。
だとしたら――――
「あっ……!」
今までの園山の行動と辻褄が合う。
最初に、祥が暴力を振るおうとした時、彼は攻撃を全てかわした。その時ヘッドホンは付けていなかった。
また、耳を塞ぐことでその力を封じることができるなら、テストの際に耳栓を着用したいと言ったのは、それでも代用ができるからだろう。
さらに、寝ている園山のヘッドホンを外した時、祥は一言も言葉を発していなかった。にも関わらず、『うるさい』と言って目を覚ました。
そして昨夜の行為の際、祥の声がよく聞こえるようにと言ってヘッドホンを外した。あれは祥が実際口にする言葉ではなく、心の中で言ったことが聞こえるように、という意味だろう。お陰で祥が思っていたことは園山に丸聞こえだった。
(でも俺があの時、痛い、苦しいって思ってたのも全部筒抜けって事だよな)
それは途中から気持ちいいと思ってしまったことも同様だ。
(うっわ恥ずかしッ! でも、それまで痛がってた奴のこと抱くのも心苦しいよな……)
こちらは襲われた側なのだから、怒りが込み上げてきてもいいはずだ。
でも、それができないのはなぜだろう。
(あいつ、俺のこと好きだって言ってた。それってやっぱり、そういう意味で……だよな)
あの行為があって、『好き』を友情の一種だと判断するのは見当違いだろう。
ぐるぐるとこじれていく思考の果てで、園山の言葉が頭の中を反響する。
――俺、井瀬塚のことが好きなんだ――
それを思い出した瞬間、祥の心拍数が一気に上昇した。だんだんと顔も熱くなってくる。
(おい、何だよ俺、この反応は! そりゃ、俺も園山のこと好きだけど……)
友達としてであって、恋愛感情ではない。はずだ。
(まぁ、あいつ格好いいし、家事できるし優しいし、そういうところはいいなって思うけど、好きって……)
友達になろうと頑張って、その結果友情以上の気持ちが芽生えたことは確かだ。
それがまさか。
「――恋……?」
小さく声に出すと同時に、祥は耳まで真っ赤に染めた。
(はあ!? 恋? 園山に恋? マジかよ俺!)
布団に潜って悶えていたが、焦りすぎだろ自分、と一旦深呼吸をしてみる。
今はまだこの気持ちにはもやがかかっていた。
園山のことは好きだ。だがその気持ちが友情なのか愛情なのか、まだはっきりとした答えが出せない。
祥は、大変な宿題を持ち帰ることになってしまった。
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