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  ***  思い悩んでいるうちに、テスト当日はあっという間に訪れた。 (なるほど、テストが始まったら行くって、そういう事か)  普段の席では祥と園山は隣同士だが、テストの際は出席番号順に座るため、祥は一番前、園山は一番後ろの席になる。  さらに、園山は出欠確認の時間ギリギリに来るようになってしまったため、朝に話しかける余裕がない。休み時間も互いにテストの準備で手が離せない。加えて、テストは午前中で終わるため、園山は終礼の後真っ先に教室を出て行ってしまう。  つまり、祥と距離を置くという事を徹底しているのだ。  テストが終われば席替えがある。そこで祥と離れる事ができたら、そのまま顔を合わさずに済む、ということか――。 (そんなことさせねえ!)  このままでは園山とただのクラスメイトになってしまう。ここまできて、そんな風になるのは嫌だった。 (勝手に自己完結しやがって。俺の話もちゃんと聞けよな)  そう。園山に伝えたいことがたくさんあった。  当初こそ距離を置きたいと言われて動揺していたが、しばらく離れることで祥もじっくりと考えることが出来た。  そして、ようやく決心がついたテスト最終日―― 「おい、園山」  祥は、一人で帰ろうとする園山を引き止めていた。  だが彼は一瞬足を止めたものの、すぐさま廊下を駆け出してしまう。 「あ、ちょっと待てよ!」  祥も廊下を走ってその後を追う。   体育が得意な祥にとって、追いつくのは簡単なことだった。階段を下りられる寸前で、園山の鞄を引っ掴む。  それでも鞄を手放して逃げようとするので、今度は園山の右腕をぐっと捕らえた。 「ちょっと来い」  きっと今の自分は、相当怖い顔をしている。  そのまま階段を上っていくが、その間にも園山は抵抗をやめようとしない。 「井瀬塚、痛いよ離してッ」  抵抗と言っても、あまり力が入ったものではない。祥を傷つけないようにしているのだという事が伝わってくる。  だがもう絶対に逃げられないように、がっちりと腕を掴んでいる手には、ますます力がこもっていく。  そうしてたどり着いた先は、屋上だった。  ここなら誰にも邪魔されないと思ったし、祥にとっても好きな場所だったから。  祥は荒々しくドアを蹴って開けると、ようやく掴んでいた腕を解放する。  その隙にも塔屋へ戻ろうとする園山の肩を、フェンスに向かって突き飛ばした。ガシャンと大きな音が鳴ったのと同時に、顔の両脇に手をついて逃げ場を無くす。  やはりこちらの背が低いため不格好になっていたが、目の前の人物を逃がさない一心でいたので、体裁などどうでも良かった。  フェンスを掴む手は、力が入りすぎて震えている。 「お前、何で俺のこと避けてんの」 「…………」  園山は黙ったままだ。喋りそうにない。 「じゃあ質問変える。何で俺の話聞いてくれないの。言わなくても聞こえるから?」 「…………」  相変わらず園山は沈黙を破らない。それでも、祥は自分の気持ちを言葉にしていく。逃がすつもりなどない。ちゃんと聞いてほしい。 「お前が何考えてるのかは分かんねーよ。でも、こっちはいきなり抱かれて告白されて友達やめたいって言われて、挙句の果てに俺のこと避けるし。俺だってそういうの傷つくんだよ!」  一度溢れ出した言葉は止めることなどできず。  昂った感情を抑えることも、湧き上がる想いに蓋をするのも、もう自分の意思ではできなかった。 「お前はそれで良いかもしれない。勝手に自己完結してさ。でも俺は全然納得いってない! お前はヘッドホン外せば俺のこと何でも分かるんだろうけどな、俺にはなんにも分かんないんだよ!」  ようやく口を開いた園山の声は、かすれていた。 「…………そうだ。井瀬塚には分からなくていいんだよ」 「――は?」 「井瀬塚には分からないだろ! こんな体質のせいで周りから気味悪がられて、みんな顔で笑ってても、俺みたいな奴寄ってくるなとか、気持ち悪いって思ってるんだ。俺の今までの苦労が、井瀬塚なんかに分かるわけない!」  あの時よりもさらに大きく悲痛な声に、祥ははっとさせられる。  その心からの叫びの裏に、園山の底知れない苦悩を垣間見た気がしたから。  だが、祥も今日までずっと彼のことを考えてきたのだ。  もう答えは見つけ出していた。 「あぁ。お前の苦労なんて、俺には分かんないかもな……。でも今みたいに言ってくれなきゃ、余計分かんねーんだよ。もっとお前の声を聞かせろッ!」

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