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「……」  園山は顔を背けようとする。だがその前に祥の手が出た。 「いつまでこんなモン付けてんだ。とっとと外せ!」  祥はヘッドホンを剥ぎ取ると、それを地面に叩きつける。 「! ちょっ、何して――」 「よく聞け! お前が、心の声が聞こえるせいで悩んでるって言うなら、俺の声以外聞かなきゃいいんだよ!」 「えっ……?」 「分かるんだろ。聞こえるんだろ、俺の気持ち!」  そう、祥の答えは―――― (……園山、お前が好きだ)  心の中で唱えた瞬間、心底驚いたような表情が目の前に現れた。 「う、嘘……」 「嘘なんかじゃない。お前が好きだ」  初めて園山の笑顔を見たときから、もうすでに祥の恋が始まっていたのだ。  無表情だった顔に、あの穏やかな笑みが咲いて。普段とは違う姿を見せられ、一目惚れしてしまったようだ。  顔が近づくと体温が上がってしまうのも、こんなに園山のことを考えてしまうのも、友達をやめたいと言われてあんなに悲しかったのも。 「全部お前のせいだ」 「で、でも俺、井瀬塚にあんな酷い事したし……」 「確かにあれはびびったけど、なんつーか、本気で嫌じゃなかったっていうか……」  まさか自分でもあんなに感じるとは思ってもみなかったが、意識していなかったとはいえ好きな相手と一つになれたのだ。痛みは覚えても、嫌だとは思わなかった。 「で、園山は俺のことどう思ってるんだっけ?」  祥が伝えるべきことは全て伝えた。あともう一度、園山の口から聞きたかった。 「――好き。いや、大好きだよ」  その言葉を求めたのは自分だが、改めて目をじっと見つめて言われると、恥ずかしくて全身がむずむずとしてくる。 「それで、俺、また井瀬塚と友達に――」 「いやだ」 「え……?」 「もう友達は終わり。その代わり……今日から、恋人ってのは、どうだ?」  自分なりに精一杯の想いを告げた途端、力強く抱きすくめられた。 「うん。うれしい……すごく嬉しい、井瀬塚っ」 「く、苦しいって」 「ごめん」  謝ってはいるものの、その腕の力が緩まることはなくて。  園山の腕の中で、祥は自分の気持ちがちゃんと伝わって良かったと、安堵の溜息を漏らす。  だがこの状態でいるのもだんだん照れ臭くなってきたので、祥は話題を変えることにした。 「あの、俺、園山に聞きたいことがいっぱいあるんだけど」  言うべきことは全て言った。後は、園山からの話を聴くだけだ。 「そうだね、全部話さなきゃ。でも、何から話そうか?」 「じゃあ、園山がこの学校に来るまでのこと教えて!」 「うん。長くなりそうだから、座ろう」  そう促されて腰を下ろすが、彼が意図していたものとは違ったらしい。 「俺はこっちのほうが好きだな」 「えっ、うわ!?」  園山は身体をこちら近づけてきたかと思うと、祥の身体をその足の間に挟むようにして座った。さら身体の前に腕を回され、背中を伝って相手の鼓動を感じるほど密着してしまう。 (な、なんかいきなり大胆だな……照れる) 「うん。ごめんね」 「あ、おまっ……」  ヘッドホンが地面に落ちたままだということを、すっかり忘れていた。  だが自分の気持ちを隠すつもりはない。少し恥ずかしいとは思ったが、そのまま続けてもらおうとすると園山はヘッドホンを拾い上げて再び身につける。 「やっぱり、これ付けてるよ」 「え、なんで?」 「無理やり声を聞くのは好きじゃないんだ」 「そっか……」  そして園山は自らの過去の話を始めた。  園山が自らの能力に気付いたのは小学一年生の頃。保育施設に通っていなかったのでそれ以前に自覚することは無かったそうだ。  家の外の世界を知らなかったせいで、人には聴こえない声を聴き取れるのが普通だった園山は、小学校に入ってから周りと上手く馴染めなかったという。 「そこからなんだ、いじめが始まったのは」 「いじめ……?」 「うん。たぶん父さんはずっと前から俺が普通じゃないって気付いてて、それで幼稚園とかに行かせなかったと思うけど」  祥は少なからず衝撃を受けていた。まさか、そんな目にあっていたとは予想もしてなかったから。  さらに園山の場合、いじめている本人の心の声が聞こえてしまう。二重で辛かったに違いない。 「俺、よく『気持ち悪い』って言われたんだけど、何でか分かる?」  祥は首を横に振る。第一、そんな風に思ったことがないから、想像も付かない。 「分かりすぎたんだよ、人が口にしないような感情を。本来皆が隠し持っている気持ちを、つい言っちゃったんだ。それがきっかけになったんだと思う」  そう言った後に、だから一番の原因は自分にあるのかも、と付け加える園山を全力で否定した。  すると背後から、ふっと笑う気配を感じた。

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