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第5話
翌朝。中岡んちは大学まで徒歩で20分程だったので、8時に家を出た。7時に起きて、中岡に冷蔵庫にあった食材で簡単なご飯を振る舞うと、泣きそうな顔して「美味しい、美味しい」と食べていた。やっぱり人が喜ぶ顔は好きだ。
中岡も一緒に行くと言っていたけど、2限からだし、夜も遅かったのでもう少し寝ておけと言って俺だけで出かけた。
事務室に8時半過ぎに着いて、鍵の落し物がないか聞いた。ちょっと待っててねぇと中年のおっちゃんから緩い返事をされた。鍵があることを祈って待っている間どきどきと胸の音が大きく耳に響く。
事務員さんが30㎝四方の段ボールを持ってきて、俺の前に置く。
「これが落とし物だよ。鍵は……、あっこれかな?」
事務員さんが1つ手に取った。
「あっ……」
あった。ボランティアに参加したときにもらったストラップの紐に鍵が付いている。
「あったぁ〜…っ」
腰が抜けて膝が床に着く。嬉しくって涙が出た。「大丈夫?!」と慌てた事務員さんの声がした。大丈夫と返事し、立てるまで少し座らせてもらった。
座って気持ちが落ち着く間に、中岡にLIINEで鍵が見つかったことを報告した。「良かった!これで安心できるね。」と返事がきて、昨日付き合ってくれたことを再度感謝した言葉を送った。
「おっ今日は昨日と打って変わってテンション高ぇな。」
4限目も終わり、時枝、三浦、輪島のいつもの3人で一緒にいる。時枝が俺の髪頭をぐりぐりと撫でながら言った。
「いや〜、朝鍵が見つかってさ!まじで良かったぁ〜。どこで落としたか気づかなかったもんな。」
俺は昨日鍵を無くしてからの経緯を3人に話した。へぇーって感じで聞いてたけど、徐々に3人の顔が険しくなる。
「誠士。お前結構危ないかも。」
三浦が真剣な表情で俺に言った。
「えっ?何で。」
落とした鍵も見つかって安心していたのにまた怖いことを言う。
「今日は何か用事あるの?」輪島の問いに何で今そんな質問を…と思いながらも「ないけど」と答えた。さらにみんなに用事ある?と確認をしている。
その質問に今日はみんな用事はないとの返答だった。
「今からみんなで宮ヶ原んち行くぞ。」
と時枝が言う。
「は?何で?」
わけが分からず、ツンケンとした態度で言葉を返した。俺だけ置いてけぼりだ。
「拾ったやつ誰かわからんけど、ストーカーされてるタイミングで鍵が無くなるってことは怪しい。多分その鍵スペア取られてるか作られてるぞ。」
はぁ、と息を吐きながら説明する時枝の言った言葉を理解すると悪寒が走った。
「えっ……。」
言葉が出てこない。今までストーカーされたことはあるが、全員顔を見てたし、いざとなれば警察に頼れると思った。しかし今回は顔も分からず、自分のテリトリーである部屋の中まで侵入されているかもという恐怖が身体を侵していく。
見えない恐怖はつらい。
「大丈夫、みんなで行こう。なんかあったら警察に相談しよう。」
輪島がゆっくりと優しい声で、俺の背中をさすってくれる。昨日に続いて友達の有り難みを感じた。
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