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第6話
4人で俺の家の前まで来た。緊張で胃がムカムカとする。周りを時枝が見てきてくれて、特に変な感じはしないとのことだった。
「じゃあ鍵開けて。」
「う、うん…。」
鞄から鍵を取り、鍵穴に当てる。手が震えて、カチカチと音がなるだけで開かない。
「あ?あれ?ははっ、うまく開かないなー。」
チャラけた感じで言ってみたが、声も震えてて誰も笑わなかった。時枝が見兼ねて「俺が開ける」と言って、代わりに鍵を開けてくれた。
「開けたら少し覗いて、誰かいないか確認するわ。」
時枝の声に、思わず近くにいた三浦の袖を掴んだ。ストーカーと出くわすかもしれないと思うと身体が竦む。三浦が俺を見つめて微笑み、頭をぽんぽんと撫でる。
ガチャっとドアが開く音がして、時枝が首だけを中に入れて確認した。
「誰もいないみたいだな…。」
力の入った手が少し緩む。「中に入るぞ」と声をかけられ、三浦の袖を持ったままゆっくりと部屋に入った。
部屋をゆっくりと見渡すと、嫌な事に気付いた。もう見たくなくて、顔を下に向ける。再び三浦の袖が皺になる程掴んだ。自分の部屋なのに、他人の気配を感じる。違和感が気持ち悪い。
「……大丈夫?」
三浦が俺の顔を覗き込むように腰を曲げる。胸のムカムカが大きくなってきて、上がってきそうだった。ふるふると頭を横に動かす。
「なんかあった?」
輪島が背中をさすってくれる。ゆっくりと息をするようにして、ぽつりぽつりと答える。
「部屋が…綺麗になってる…。ゴミ袋がない…。料理なんか作ってない…っ。」
シンクの上にはラップをかけてサラダとオムライスが作ってあった。梅雨でなかなか洗濯できず、溜まった洗濯物は綺麗に畳まれて置いてある。ゴミ袋がなくなり、散らばった雑誌などは綺麗にまとめられていた。
「…今回のストーカーちゃんは彼女気取りだね。」
「…ここまでくると笑えないな。」
「今までドアノブに誠士の好きな物を差し入れたり、てるてる坊主作ったりで実害なさそうだったのに、急に距離を詰めてきたね。何かきっかけがあったのかな…。」
知らない。そんなに仲良くなった女子は記憶にない。ボランティアで何回か話した子がいるけど、俺には興味なさそうだった。
15分ほど時間をかけて気持ちを落ち着かせた後、他にも変わったことがないかみんなで見て回った。歯ブラシが新しいのに変わっていたりしていたが、貴重品などの他の物は盗られたりしていなかった。
俯き気味で確認しているときに洗面台で小さな物を見つけた。3㎝程の大きさのご当地キャラクターのフィギュアだった。メジャーではないが一部のコアなファンがついている。でも…俺のものではない。
「これ、お前らの?」
「何これ。」とそれぞれ見るが知らないとのことだった。
「………ストーカーのやつ?」
輪島がぼそっと呟く。俺は思わず手からフィギュアを手放し、床に落ちていった。
怖い。怖い。
「俺もうここいたくない…。」
自分の部屋なのに息苦しい。所々から他人の空気の感じ取り息がつまる。
「そうだよね。他は大丈夫みたいだし、貴重品は持って出ようか。」
三浦が声をかけてくれる。
「…警察行ったが良くない?」
輪島が提案する。
「警察……」
そうだよな。相談したがいい。けど…一回休みたい。休んでから行きたい…。胸のムカムカがきつくて、吐きそうだし、頭も痛い。時枝が俺の顔を確認する。
「誠士具合悪そうだな…。一回休んでから行くか。俺んち近いし行こう。」
時枝の提案はとてもありがたかった。
「うん…ありがと。」
その後時枝の家にお邪魔して落ち着くからとホットココアを出してくれた。いつも馬鹿騒ぎしてる友人が優しくて、気が抜けたのか俺は気づいたら朝まで眠ってしまった。
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