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第7話
目が覚めると時枝の顔が近くにあって驚いた。身動ぐと時枝が目を覚ます。
「お前爆睡だったな。輪島と三浦は布団なくて一旦家帰った。1人で寝かせてあげたかったけど、床硬くて眠れんで一緒に寝たわ。」と大きな欠伸をしながら身体を起こした。
「寝ちゃったのか。ごめん!ベッドまで借りて…」
「あほ。気にすんな。それだけキツかったんやろ。」
力強く頭をぐりぐりと撫でられる。
少し間を置いて「今日どうする?」と問われた。ぐっすり眠れたお陰か昨日よりも恐怖は減っていた。でもこのままでは家には住めないし、何とかしたが良さそうだ。
「今日警察行ってみる。」
「そうだな……。あ、でも今日の1限斎藤の授業か。」
「あ、そっか。」
斎藤というのは電子カードの出席は見らず、授業の最後に学生番号と名前を書かせて出席を取る先生だ。出席率8割いかないものは問答無用で単位を落とされる。まだ6月で先何があるか分からないため、出席できるときはしていたい。
「斎藤の授業終わったら行く。」
「そうだな。多分2人も一緒に行くだろうから、授業の前に言おう。」
「うん。ありがと。」
パンとコーヒーを飲んで、学校に向かった。授業に向かうと先に三浦と輪島が先にいて、席を取っていてくれた。今日警察に行くことを言うと、一緒に行こうと言ってくれて嬉しかった。授業も無事に終わり、4人揃って教室を出る。
「宮ヶ原君!」
声のする方を振り返ると中岡が不安そうな顔で立っていた。
「おっ、どうしたん?」
「具合が悪いって…身体大丈夫?直接伝えたい事があるってどうしたの?」
「え?俺なんか言ったっけ?」
中岡が言ってる事に見覚えがなかった。
「誰かと間違えたんじゃないの?」と横から輪島が入ってきた。
「あ…え…でも確か……っ」
中岡がごそごそと鞄の中を探す。探している間に誰?と時枝に聞かれたのでボランティア部の中岡と説明した。
「ねぇ、中岡君。」
「え?」
時枝が中岡に声をかけた。中岡は話しかけられてびっくりしたのか探すのをやめて時枝を見る。
「その鞄のチャックの所、何かついてたの?」
鞄のところに先のないキーホルダーが付いている。素っ頓狂な質問をしたので、中岡は頭に疑問符を浮かべた顔をしたが、律儀に答えた。
「こ、これ?これはぴぃちゃんっていうマスコットがついてた。」
俺は一瞬息をするのを忘れた。俺の家にあったキャラクターと一緒だったから。他3人の空気もピリッと張り詰める。
「何処で無くしたの?」三浦が聞く。中岡は3人の空気が変わったことに気づき、怯えた目をした。
「わ、わからない…です。いつの間にかなくなってて…。」
「なぁ、もしかしてこれ?」
時枝はポケットからあのキャラクターを出した。
えっ…、いや、まさか……。
「あ!これです!す、すごい!よくわかりましたね!」
怯えていた中岡の顔がパッと明るくなった。俺は血の気が引いて、唇が震える。
「何処にありました?」
中岡が話しかけると、時枝は中岡の胸倉を掴み、人気が少ない柱の向こうに連れて行く。
中岡が「えっ、離してくださいっ」と少し暴れるが日頃鍛えている時枝には響かない。三浦と輪島に促され、俺も移動する。
「お前が誠士の家のドアノブに物置いたり、ベランダに侵入したり、家に入ったりしたのか?」
時枝が中岡の襟ぐりをぐっと締め込むように掴む。声が地を這うように低い。中岡はびくっと身体を震わせ、血の気が引いたように顔の色がなくなる。
「あ、あ…僕は……っ」
「嘘をつくなよ。」
「………っ」
中岡が俺を見てきた。そんな訳ない、もしかして…とぐるぐる考えが回り動けなかった。
中岡は意を決したように話し始める。
「ぼ、僕は…、ドアノブに差し入れしたり、てるてる坊主を飾ったりした…っ。で、でも部屋には入ってな、い!」
「嘘をつくな。お前のこれは誠士の部屋で見つかったんだ。」
「えっ…知らない!本当に入ってない!」
いい友達になれると思ったのに、今までの事は中岡がやってたのか。家に入ってないって言っても、中岡の物が俺の部屋で見つかった…。
「宮ヶ原君!居酒屋で聞いて、怖がらせてたことに気づいたんだ!ごめんなさい!でも俺は部屋は入ってない!」
中岡の言葉には嘘はないように聞こえた。でも……。
「今から警察に行く。お前がベランダしか入ってないと言っても不法侵入未遂で行けるぞ。」
「け、警察……」
中岡は静かになる。時枝が力を緩めると床に膝をついて茫然としている。
「誠士。」
名前を呼ばれ、項垂れている中岡から時枝に目線を移す。
「ストーカーの犯人はわかった。このまま警察に行ってもいい。嫌なら2度と近づかないように約束して終わってもいい。お前はどうしたい?」
中岡の身体が震えて、涙を流している。今後はしないような気がした。
「……約束だけで。」
「……わかった。」
時枝は中岡の方に身体を向け、「今度近づいたら問答無用で今回の件を警察に言うからな。」と凄んだ。中岡は数秒の沈黙の後、「はい…」と消えかかりそうな声で返事をした。
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