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俺と幼馴染の事情②
「あ、見て見てかっちゃん。黒猫だ」
しばらく無視していると、やがてしょげるのに飽きたのか、気を取り直したのか、能天気な声が聞こえてきた。
真後ろにではなく、少し離れた場所から。
後ろを振り返ると、声と同じくらい能天気な笑顔が、塀の上で寝そべる真っ黒な猫を指さしている。親子なのか兄弟なのか、そいつのそばにもう一匹黒いのがいて、なんとなく物憂げそうな表情でこちらを見下ろしていた。
「いいよなぁ、猫。猫吸いてぇ~。なぁなぁ、かっちゃん知ってるか。猫吸うと気持ちいいらしいぜ」
知るか。
猫吸うとか、猫は飲み物じゃないっての。
あほらし。
ちらりと向けた視線がだいぶ冷たかったらしい。そいつはぴゃっと変な声を上げると、俺の側へと寄ってきた。
そうこうしつつ歩き出した俺たちなのだが、しばらく静かだったと思ったら、また後ろからなぁなぁと話しかけてくる。次だ。次何か言ったら……、
「あ、かっちゃん。ほらこないだ言ってたコロッケパンの店。うちの商店街のコロッケも美味いんだけど、あそこもなかな――わわっ、待ってよ!」
即座に足を速めたのに気づいたらしい。背後から聞こえる足音のペースが上がる。
学校まであと少し。そう思っているのに、その後もあれやこれやで止まる足。
「おい」
何度目かの足止めにじれた俺は、後ろを向いているそいつの襟首をひっつかんで胸元に寄せて叫んだ。
「いい加減にしろよ、かっちゃん!」
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