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俺と幼馴染の事情③
「そんで、仲良く遅刻したってわけか。今日も」
「してない」
そう言ってにんまりと笑う矢部は、手にした文庫本のページをめくりながら答える俺の顔を覗き込んできた。うぜぇ。
実際ギリギリだったとはいえ、今日は遅刻していない。俺はな。
あいつがどうだったかは、知らん。
そもそも毎日歩く通学路で、毎日毎日なにが楽しいんだか。
「またそんなつれないことを。かっちゃんがかっちゃんに熱烈らぶらびゅーんってのは、南中じゃ知らぬやつはいないって評判よ?」
ちらりと視線を巡らせるのは窓の外。窓際最後尾の俺の席からは、すぐ下のグラウンドが良く見える。ちょうどサッカーをしているらしい生徒の中に、見知った顔を見つけ、俺は思いきり顔をしかめた。
なにがらびゅらびゅーんだ。
そんなんじゃねぇっての。
文庫本の背で頭を小突いてやると、カエルのようなへしゃげた声が上がった。
「いてーよ」
むかつく。
ついでにこっちに気づいたやつが手を振ってきたものだから、さらにむかつく。
舌を出してやると、きょとんとした顔したあいつは、にまぁっと、嬉しそうに笑った。なぜだ。
俺、田原和美と、あいつこと高見沢克哉は、幼稚園で出会った。
親父が、祖父の経営していたケーキ屋を継ぐために、家族揃って引っ越してきたからだ。
あいつの家は、同じ商店街の中にある八百屋で、親父同士も幼馴染。引っ越して来たとき、近所に同い年のお友達がいるのよと、母親が嬉しそうに言っていた。
割りと早熟だった俺だが、まだそれがどういう意味を持つのかはわかってなくて、なんとなくワクワク楽しみだったのは覚えている。
「かっちゃんはオレなの!」
そう、あいつが言い出すまでは。
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