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放課後お菓子と幼馴染の事情②

 確かあれは小学校に入って間もなく。  クラスのみんなでありがとうを言い合いましょう。感謝を伝えましょうとかいうのがあって、その日は一日中積極的に相手の喜ぶことをしたり、してもらったらありがとうを言いましょうとかいうのをやったことがある。  我が幼馴染は一言で言えば単細胞だ。おまけに好奇心が旺盛で、昔から目が離せないやつだった。ようするに俺は自然こいつとワンセットの世話係とみなされていのだやめてくれ。  本人も迷惑をかけているという自覚があるのか、俺にはよりたくさんの「ありがとう」を言わねばと思ったらしい。  うちの親父にそれを言ったら、「じゃあ、愛してるって言うといいよ。ありがとうとか大好きよりも、より好きな人に言う言葉だからね」と、アドバイスをもらったというわけだ。  どこからどう突っ込めば一番いいか迷うところではあるのだが、かっちゃんに輪をかけたマイペースな我が親父殿である。それ以来かっちゃんから毎回愛の告白もどきをされる羽目になった。  いい加減親父に適当なアドバイスをもらったことに、気づいてもらいたいものなのだが、「あらあらあら」っと微笑ましげな周りの笑みに、本人これでいいのだと思ってるに違いない。自分の親だけに反論も出来ないし。  愛してるなんて普通滅多にもらえなさそうな告白を、スルーするスキルなんて身につけたくなかったぜ。くそぉ。 「やっぱりいた」  世の中の理不尽さに拳を握りしめていると、開いたキッチンの扉からひょこりと頭が覗いた。 「おぅ、和希、おかえり」 「兄さんただいま。外まで奇声が聞こえたよ」  ほんといい加減にして欲しいものだ。  和希は俺の弟である。歳はふたつ下。よく目つきが悪いと言われる俺と違って、親父似の美少年だ。似てないとよく言われるが、俺は母親そっくりなので血が繋がっているのは間違いない。  俺と同じで目つきのよろしくない母親は、元ヤンだったらしいが、よろしくない目つきでピンクとフリルをこよなく愛するオトメンである。いや、これも平成時代の言葉だし、母親はたぶん女だから違うか。 「お前も食うか?」  まだ手付かずな俺の分を指差すと、「いらない」と首を振り、和希は頭を引っ込めた。昔はいつもべったりだったのに、いつの間に距離が開いてしまったのか。兄としては少し寂しいものがある。もしかして反抗期だろうか。  かっちゃんの方に向き直ると、自分の分が取り上げられると思ったのか、皿を抱え込んだまま、胸をほっと撫で下ろしているところだ。さすがに俺もそこまで無慈悲じゃないぞ。  しかたないからと自分の皿を持ち上げたところで、食い入るような視線を感じた。   「かっちゃん、もしかしてその皿」 「安心しろ、俺が食う」 「……あぃ」  恨めしそうにこっちを見るな。鬱陶しい。

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