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放課後お菓子と幼馴染の事情④
思えばこいつとも長い付き合いだ。お互いまだ十代前半。これからの人生、順当に行けばまだまだ先は長いはずだが、すでに人生の半分以上、一緒にいるのか。
「あ、そういえばかっちゃん」
つらつらとそんなことを思い返していた俺は、突然呼ばれて顔を上げた。
「もうすぐ進路調査だけど、かっちゃんはどうするの?」
「え? 俺はY製菓学園に行こうかと」
とっさの言葉に頭が働ず、ほろりと口から言葉がこぼれる。
「えっ!?」
「え、いや、あそこ高等専修学校だろ? 製菓衛生師の資格に加えて高卒の資格も取れるから」
ひどく驚いた表情を浮かべたかっちゃんに、俺はなぜだか落ち着かない気分になって、手をパタパタ振りながら説明する。
昨日今日で考えついた訳じゃない。子供のころから菓子作りは好きだし、どの道親父の跡を継ぐのなら、早い方がいいと思っただけだ。
「えぇぇ!?」
だがかっちゃんは、ただ目を見開いて、こっちを見るばかり。どうしてだろうと、俺は首をひねる。
あ、そうそう。
「そういや、呼び方だけどさ。来年は中学卒業だし、そろそろ『ちゃん』づけは止めないか?」
進学の話も出たし、ちょうどいい機会だ。俺はそう付け加えると、テーブルの上の皿を片付けようと立ち上がり、うつむいたかっちゃんに怪訝そうな目を向けた。
「……ひでぇ!」
しばらくうつむいていたかっちゃんは、がばりと顔を上げると叫んだ。
「え?」
「かっちゃんの大バカやろー!!」
「えぇっ!?」
今度はこちらが驚く番だ。彼の言動には日頃から驚かされっぱなしだけど、今日のようにひどく思いつめたような顔を見るのは初めてで、俺はごくりと喉を鳴らした。
「もう、大っ嫌いだっ!!」
愛してるとほぼ毎日言われ続けてたけど、嫌いは言われたことがなくて。驚いた俺に、かっちゃんはぎゅっと口を引き結ぶと、「帰る」と小さな声で呟いて立ち上がった。
「兄さんたち、ホントいい加減にして! ――って、どうしたの?」
かっちゃんの大声に、とうとう切れたらしい。足音を立てて階下に降りてきた和希は、玄関の方を見つめたままの俺を見て、そばに寄ると俺の腕をつかんだ。
「いや……」
心配そうな顔をした弟に首を振る。
この時はまだ、自分ではそんな大層なことだとは考えてなかった。喜怒哀楽が激しいかっちゃんは、今あったことも、すぐに忘れてしまうから。
怒っても泣いても、五分経てばけろりと、なにごともなかったかのように笑って流してしまう。
だから俺は、楽観的に考えてたんだ。
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