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俺と憂鬱と来訪者の事情①
翌日から朝の迎えがなくなった。
もとより別のクラスの俺たちは、それだけで接点がなくなってしまう。そう、俺が気づくのに、さほど時間はかからなかった。
むしろなぜ今まで気づかなかったんだろう。それくらいかっちゃんは、俺と一緒にいたんだ。
一日、二日、三日経ち、最初は意地を張っていた俺だけど、だんだん不安になってくる。
そして次の土曜日、待っていた俺をよそに、かっちゃんはうちに来なかった。
「田原ぁ、生きてるかぁ?」
目を上げると矢部が顔の前で、ひらひらと手を振っている。
いったい、なにがいけなかったんだろう。
「田原ぁ、お~い」
考えてもわからない。
思い返せば、一週間以上離れたのって、初めてのような気がする。
「弁当もらうな、『はいどうぞ』、よしいただきま」
ため息をつくと、目を落とす。カラフルとは程遠い、茶色い弁当に、にゅるりと手が伸びて来る。思わず手にしていた箸をぶっさし――
「やめい!」
かけたら、慌てたように手が引っ込んだ。ちっ。
「なにが「ちっ」だよ!? 今本気だったろ」
「人の弁当に伸びる魔の手に、制裁を加えただけだ」
「怖いっ! 冗談は顔だけにしてっ!!」
「うるさいわっ!」
そりゃ、小学校のころとか、目つきが怖いとクラスの女子に泣かれたことあるけどなっ。美少年と評判な、弟と比べりゃ十把一絡げだろうけどなっ。
余計なお世話だ。傷ついた。
慰謝料として矢部が確保していた焼きそばパンを強奪して食ってやる。
購買部の強奪戦をくぐり抜けたと泣いてるが、そんなの知らんし、購買部に行ってたにしては、戻りが早すぎる。さっきの時間いなかったし、どうせサボりついでにフライングして買ったんだろ。
「さすが学力学年三位。名推理」
「誰でも分かるわ、アホ」
「そういうツンデレなとこも好きよ、かずぴょん」
「誰がかずぴょんだ」
「いいじゃ~ん、『かっちゃん』は専用らしいし、俺だってニックネームで呼びたいんだもん」
くねくね身をよじる矢部がキモい。じっと見つめてやると、こほんと咳払いされる。
「ま~、なにがあったか知らんけど、元気出せって」
気づけばそんなことを言われて、ぽんぽんと肩を叩かれた。もしかして、励ましてくれてるのだろうか。
矢部はにっかりと歯を見せて笑うと、パンの袋をくしゃくしゃに丸め、席を立つと教室の出口へと向かった。
まったく。
俺は椅子に腰掛けなおすと、弁当を口に運ぶ。もぐもぐと咀嚼すると、ほんのりダシの甘みを感じる。なんだか久しぶりな気がして、少し笑った。
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