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第4話 葛藤。

桜が咲く季節、合否結果を見に俺達は希望校へと赴いた。昨今ではインターネットで結果を発表する学校も多いが、この高校は旧態依然を良しとしているらしい。 此処にいる殆どの人が、人生で最初の岐路に立っているのだ。 皆が緊張した面持ちで掲示板の前に張り出された紙と受験票を照らし合わせている。 白石陸斗…有った! 俺の名前は…良かった。受かってる。 ちゅん太は…奴にしちゃ上出来だな。 ホッと息を吐き横を向くと、陸斗と視線が重なった。彼の屈託の無い笑顔に胸が弾む。 「大樹、また三年間一緒だね。宜しく!」 『ああ、宜しくな。』 傍に居られる喜びに浸りながらも、変わらないであろう関係性に複雑な心持ちになる。 彼の笑顔を独り占めしたいと願うのは、欲が過ぎるだろうか… 「大君、りっちゃん、やったな!4月から高校生だぁーーーっ!!」 俺の不安なんて余所に、ちゅん太が小躍りしそうな程の勢いで駆け寄って来た。 何で補欠合格のお前が一番はしゃいでいるんだよ。 そう言ってやりたかったけど、ちゅん太の嬉しそうな顔を見たら連られて笑ってしまった。 『ちゅん太、恥ずかしいから声落とせよ。』 「ちゅん太、良かったね。」 「りっちゃ~ん、大好き!大樹はどっか行っちまえ!」 『テメェ!人前で陸斗に抱きつくな!』 「じゃあ、人が居ないトコで抱きつけば良いんだな?」 『はぁ?!』 「はぁ?!」 「ケンカするなら俺一人で帰るからな。」 呆れ顔で背を向ける陸斗を俺達は慌てて引き留めた。 「りっちゃん、ごめんね。」 『陸斗、ごめんな。』 「もうケンカしない?」 「「しないっ!」」 「よしっ!じゃあ、三人で仲良く帰ろっ!」 『DVD借りて俺ん家で観るか?』 「「イイねっ!」」 俺達は、いつもの様に下らない話をやいやい言いながら校門を後にした。 きっと、これからもこんな風に過ごして行くんだろうな… 高校に入学してから、俺に告白して来た女子の何人かと付き合ってみた。実る事の無い不毛な片想いに終止符を打ちたかったからだ。 自分が異質な存在であると感じてもいた。 普通の高校生の男女みたいにデートをしたり相手の家へ遊びに行ったりもしたが、キスはおろか手を繋ぐ気さえ起きなかった。 彼の代わりには誰もなれない。自分は彼以外は愛せないのだと思い知らされただけ。 別れを告げた相手に「大樹にヤリ捨てされた。」「南雲大樹(なぐもたいき)は、女を弄ぶ酷い男だ」と吹聴されても否定はしなかった。 何も無かったとは言え、陸斗を諦めようと彼女達を利用したのは事実だから。 陸斗は噂を信じてしまっただろうか。下衆な男だと軽蔑されたかも知れない。不安に苛まれながらも、彼に告白する勇気が持てず諦める事も出来ない。 鬼から逃げる隠れんぼみたいに、本当の姿を隠して好きな男の前で親友を演じている自分が酷く滑稽に思える。 俺達の関係性はこれからもずっと変わらない。傍に居られれば充分だと自分に言い聞かせて来た。 だけど本音は違う。彼が女を抱いたり男に抱かれる姿を想像するだけで嫉妬で気が狂いそうになる。 誰にも触れさせたくない。 手に入れてしまいたい。 悶々とした日々を過ごす中で、三人の関係が変わりつつある事に俺はまだ気が付けずにいた。

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