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第5話 損な性分。
二年に進級してから、ちゅん太が隣りのクラスの逢坂晴彦(おうさか はるひこ)とつるむ様になった。
最初の内は逢坂が一方的にちゅん太を構っている感じだったが、最近では休み時間にちゅん太の方からも奴に会いに行くようになり、放課後も俺達とは別行動する日も増えている。
ちゅん太は元来社交的な性格で誰とでも仲良く接する奴だったが、俺達以外で特定の友人を作るのは珍しい。
逢坂は見た目も雰囲気も陸斗とは全然違う。
寧ろ俺と似たタイプだから、陸斗の事を好きなちゅん太が彼とどうこうなるとは思えないが、其れでも二人の親しげな様子が気になる。
ちゅん太が逢坂と付き合えば俺にもチャンスが巡って来るかも知れない。 だからと言って陸斗が悲しい思いをするのは望んでいない。
矛盾した思いを抱えてる自分に苦笑してしまう。
数ヶ月経ったある日の放課後、俺達の関係を揺るがす出来事が訪れた。
廊下で陸斗とちゅん太が深刻そうな表情を浮かべ話し込んでいるのを目にした。二人へ声を掛けるのを躊躇い、少し離れた場所に立ち様子を窺う事にした。
暫くすると、ちゅん太が陸斗を自分の元へ引き寄せ抱き締めた。
胸に楔を打ち込まれたような痛みが走り、傷口からどす黒い感情が広がっていく。
陸斗は彼の胸に凭れ掛かり、静かに涙を流している。
まるで、映画のワンシーンを観ているみたいだ…
二人の姿がぼやけ、生暖かい雫が頬を伝う。濡れた箇所に指先を這わせ、自分が泣いている事に気が付いた。
教室に戻り鞄を手にし、重い足を引き摺る様にして教室を出た。
川べりを独りきりで歩き家路へと向かう。
舗装されていない砂利道がいつもより長く感じる。
「大樹~~〜っ!」
不意に背後から名前を呼ばれたが、振り向かずに足を速めた。
今、一番会いたくない男の声だったから。
「無視すんなよ。」
『何だよっ!!』
肩を掴んで来たちゅん太の手を振り払い声を荒げてしまったのに、彼は心配そうに俺を見詰めて来る。
「何怒ってんだよ?何も言わずに一人で先に帰っちゃうしさ。俺、お前を怒らせる様な事したか?」
いいや、お前が悪い訳じゃない。怒る資格なんか俺には無いって分かってる。
だけど…今はお前の顔を見るのが辛い。
『ごめん。怒ってる訳じゃないんだ。ちょっと具合が悪くてさ。』
「え?!大丈夫か?!」
『帰って寝れば良くなると思う。』
「そっか。それなら良いけど。」
『陸斗は?』
「もう家に着く頃じゃないかな。お前の事心配してたぞ。後で電話をしてやれよ。」
『ああ、そうするよ。』
「うん…」
ちゅん太は其れ切り黙り込んだまま、靴の爪先で砂利を蹴り初めた。
話が有るのに躊躇っている顔。陸斗と付き合う事になったと俺に報告したいのだろう。
気が付かない振りをしてしまえば済む。そう思っていても、ちゅん太は俺の大切な友人だから無下に扱うのも可哀想な気がしてしまう。
我ながら損な性分だな。
『何か俺に話したい事でもあるのか?』
「あのさ…」
『遠慮なんてらしくないだろ。話せよ。』
「大樹、お前さ…」
『ん?』
「好きな奴いる?」
『…いるよ。』
「それって…もしかして陸斗?」
『…ああ。俺が好きな人は陸斗だ。』
俺はずっと胸に秘めていた陸斗への想いをちゅん太に告げた。
誤魔化す事だって出来た。
笑い飛ばす事も。
でも、そうはしなかった。
彼の瞳が余りに真剣だったから…
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