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第6話 涙の理由。
「そっかぁ、やっぱりな。」
『やっぱりって…気が付いてたのか?何時から?』
「かなり前から、そうじゃないかなってさ。」
『そうか…陸斗は…?』
「陸斗はお前の気持ちに気が付いて無いみたいだな。彼奴、余計な事は察しが良い癖に肝心なところが抜けてるんだよ。」
物悲し気に微笑むちゅん太を目にし、居たたまれない気持ちになる。
『ごめんな。』
「何で謝るんだよ?」
『だって、お前達付き合ってるんだろ?其れなのに…』
「は?付き合ってる?誰と誰が?」
『誰って…お前と陸斗。』
「へ?」
『心配しなくても大丈夫だぞ。お前等の仲に割り込むつもりは無いから。他の奴ならまだしも、お前も俺にとって陸斗と同じぐらい大切な奴だからさ。』
「……お前も大概鈍い奴だな。」
『俺の何処がっ!!って…おい、何で泣いてるんだよ。』
泣き顔を隠すように背中を向け、両手で顔を覆い空を仰ぐ彼の後ろ姿がやけに悲しく映って見える。
『ちゅん太、大丈夫か?』
何でちゅん太が泣くんだよ。泣きたいのは俺の方なのに…そんな背中見せられたら心配になるだろ。
「あー。参ったな…」
『何が?』
「大切な奴とか、、言うなよな。」
『本音を言っただけだぞ。』
「そっか…ありがとうな。」
『うん。』
「俺さ、付き合う事にしたんだ。」
『陸斗とだろ。』
「違う。相手はハルだよ。」
『…え?!ハルって逢坂晴彦か?』
「くくっ。フルネームで言うなよ。」
『いや、余りに驚いたから。』
「以前から恋人になってくれって言われてて、先週やっと返事した。」
『そうか。』
「うん。何かスッキリしたわ。」
涙を拭った彼の顔は晴れやかなものに変わっていた。
『おめでとう。って言って良いんだよな?』
「ああ。其れで良いんだ。」
『陸斗には話したのか?』
「さっき話した。」
『さっき…』
陸斗が泣いていたのは、この事が原因か。
好きな奴に恋人が出来たなんて告げられたらショックを受けるのは当たり前だ。
大丈夫なのだろうか。部屋に篭って独り切りで泣いているかも知れない。
「大樹?」
『陸斗は…』
「陸斗がどうした?」
お前に想いを告げなかったのか?
喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。陸斗が告白したって確証がないのに、彼奴の気持ちを俺が言うべきじゃ無い。
『いや、何でも無い。帰ろうぜ。』
「ああ…」
頭ん中が陸斗の事で一杯になってしまい、その後交わした会話内容も殆ど覚えていない。
ちゅん太の想い人が誰だったのか、彼が泣いた理由さえも気が付かないまま、帰り道を並んで歩いた。
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