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第7話 お揃いの傘。

ちゅん太と別れてから、間無しに、雨がぽつり…ぽつり…と降り始めた。細い絹糸の様な雨が徐々に量を増していく。大樹は駆け足で家に帰ると、浴室へと直行した。 シャワーを浴び終えて、バスタオルで髪の雫を拭いながらリビングのドアを開けた。母親の不在に気が付き、辺りを見回す。テーブルに置かれたメモ紙を目にし、友人達と旅行で数日家を空けると言っていたのを思い出し、独りごちる。 『お袋、今日から居ないんだったな。』 二階へ上がり、鞄から携帯電話を取り出すと着信履歴が三件表示されていた。それ等は、全て陸斗からのものだった。 電話してみようか…掛けたところで何を話せば良いんだ。 ちゅん太に告白はしたのか? そんな事聞いたら、さっき二人を見ていたのがバレちまうし… 散々迷った挙句、電源を切りサイドチェストの上に置いた。 ふと、以前ネットで興味半分に購入した物を思い出す。引き出しに手を掛け、未開封のまましまい込んでいた袋を取り出し、中に入っているゼリー付きコンドームと媚薬クリームを眺めて苦笑いを浮かべた。 ずっと想いを寄せていた相手に告白すら出来ないまま失恋したっていうのに、此れを使う日なんて訪れる訳がない。不用品以外の何ものでもないな。 『はぁ……』 溜め息を吐き、瞼を閉じた。窓の外から雨音が聞こえて来る。 静まり返った室内にサーサーと柔らかな音が響き、いつの間にか眠りに落ちていった。 雨が激しさを増し、窓に吹き付ける音で大樹は目を覚ました。 窓辺に立ち、外を見やる。 日は既に落ちており、薄暗い景色の中雨が隙間無く降り注いでいる。 踵を返そうとした時、街灯の下に青い傘が開いているのを視界が捉え足を止めた。 其れは、陸斗と一緒に買い物へ行った時に、初めてのバイト代で彼にプレゼントした色違いの傘。 彼の傘は青色に水色の線が一筋。 俺の傘は深緑に黄緑の線が一筋。 彼処に立って居るのは陸斗だ。間違え様が無い。 慌てて部屋を出て階段を駆け下り、玄関の扉を開けた。 『りっちゃん!!』 焦りの余り、子ども時分に呼んでいた名前で叫んでしまった。 俺の声に反応し、露先から覗かせた陸斗の顔が綻びる。 「大樹。」 『お前…いつから此処に立っていたんだ?顔色が悪いぞ。来るなら電話して来いよ。』 「掛けたんだけど繋がらなかった。」 あ…携帯電話の電源切ったままで寝ちまったんだ。 『だからって…来たなら玄関のチャイムを鳴らせば済む話だろ。』 「何か怒ってるのかなって思ってさ。」 『俺が?お前に?何で?』 「何も言わずに帰っちゃうなんて事、今まで無かったし、電話にも出なかったから…」 『怒ってなんか無いよ。』 「本当に?じゃあ、どうして?」 どうして?って言われてもなぁ。 『…取り敢えず入れよ。』 「良いの?」 『当たり前だろ。って…おいっ!お前手が凄く冷たいぞ。どのくらいの時間、外に居たんだ?』 「んー。二時間ぐらい?」 『ぐらい?じゃねーよ!早く来いっ!』 冷え切った陸斗の手を引き家へ戻ると、彼を脱衣所へ押し込んだ。 『風呂入ってあったまって来い。』 「え?良いよ。」 『四の五の言わずに入れ。」 大樹の気迫に押され、陸斗は頷くしか無かった。

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