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第8話 疑問符。
シャワーノズルから流れ落ちる湯音が浴室内で反響し、着替えを持って脱衣所に脚を踏み入れた大樹の耳元に届く。
ドア一枚隔てた向こう側で陸斗が素肌を晒しているという現実が、大樹の股間に刺激を与えようとする。
きゅっ。
蛇口の閉まる音がし、ドア硝子に陸斗の裸体がぼんやりと映し出された。大樹は喉に乾きを覚え、ごくりっ。と生唾を飲み込む。
「大樹、其処に居るの?」
気配を感じたのか、陸斗がドアノブに手を掛けたまま出て来ない。
「出て良いかな?」
『あ、ああ。着替え用意して有るから…』
はたと我に返り、急いで脱衣所を後にする。本当は後ろ髪を引かれる思いだった。
足早にキッチンへと向かい、コップに水を注いだ。其れを一気に飲み干し喉を潤す。
掠れた声が出てしまった。
変に思われただろうか?
ズボンのジッパー部分が盛り上がっている…堪え性の無い己の雄に溜息を零す。
陸斗が風呂から出て来る前に、鎮めないとまずいな…
大樹は煩悩を追い払うべく、頭の中で古文の授業で教わった民話の一節を唱え始めた。
今は昔、竹取の翁といふ者ありけり……名をば、讃岐の、さぬきの、、あれ?何て名前だっけ?
うろ覚えの名前を思い出そうと冒頭から復唱している最中、脱衣場のドアが閉まる音がした。
視線を落とし、股間が元の形状に戻っているのを確認して、そっと胸を撫で下ろす。
「着替えありがとう。」
『ああ…うん…』
「大樹の服大きいな。同じ男なのに、何か悔しい。」
『やっぱり、俺の服じゃ、お前には少しデカかったな。』
上気した肌の色が妙に艶っぽくて、思わず魅入ってしまう。
恋人にワイシャツを着せたがる男の心理が分かった気がする。屈んだら乳首が見えそうだな。
やばい…このままだと、又…
再び雄が目覚めない様に、陸斗に背を向けて冷蔵庫の扉を開ける。
『何か飲むか?って言っても、冷たいのは、お茶、コーヒー、後はスポーツ飲料ぐらいしか無いな。コンビニに行って買って来ようか?』
「わざわざ買いに行かなくても良いよ。其れに外は土砂降りの雨だよ。」
『そうだな…じゃあ、どれにする?』
「アイスコーヒーが良いな。」
『部屋で飲むか?』
「ふふっ。」
『何だよ。』
「だって、大樹さっきから、疑問符ばっかり使ってるから。」
確かにな…
『気の所為だろ。部屋で菓子でも食いながら映画でも観ようぜ。』
「うん。」
二人きりの空間で先程の現象が起きてしまったらどうしよう。
落ち着け、俺。
下半身に一抹の不安を感じつつも、陸斗が思いの外、元気そうな事に安堵した。
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